宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 ジークヴァルトの守り石は、リーゼロッテを守るように威嚇(いかく)の放電を続けている。青い火花の(かたまり)を、男は忌々(いまいま)しげに振り払った。

「龍の盾……なんとも小賢(こざか)しい真似を」

 見えない圧が部屋の空気を押しつぶす。いっそう強くなった(まばゆ)さに、リーゼロッテは思わず目を(かば)った。
 切り裂かれた神官服の下から、青銀の輝きが浮き上がっている。よく見ると首から下の肌に、魚のような(うろこ)が並んでいた。(またた)くような揺らめきを、その一枚一枚が不規則に放っている。

 リーゼロッテの驚きを感じたのか、男は一変、口元に笑みを刻みこんだ。

「ああ、見えてしまいましたか。どうです、美しいでしょう? これは青龍の(もん)――わたしが神そのものである(あかし)です」
「神である証……?」

 その言葉が不思議と()に落ちた。他者を圧する無慈悲な力は、神の怒りに触れたと言われても納得しそうな代物(しろもの)だ。

 そのときふいに男が上方へと顔を向けた。耳を澄ますように、どこか遠くに意識を傾ける。

「まぁいいでしょう……何やら(ねずみ)が入りこんでいるようですし、今宵(こよい)(きょう)を削がれました。おたのしみはまた今度といたしましょうか。次の満月を越えたら、再びここへと参ります」
「満月を越えたら……?」
「ええ、わたしもなかなか時間が取れないもので。唯一の休息と言えば、王の祈りの儀の(みそぎ)明けなのですよ」

 ということは今夜も満月を過ぎた頃合いなのだろう。執行猶予が一か月ついたということか。力が抜けるとともに、その日を(おび)えて待つ日々が、これからも続くのだと思うと絶望が込み上げる。

「今日のような恐怖を味わいたくなかったら、食事はきちんと採ることをお勧めしますよ。穏やかに抱かれた方が、貴女も心休まるでしょう? 無理やりがご趣味と言うのなら、わたしは一向に構いませんがね」

 それだけ言い残して、男は来たときと同様、音もなく部屋を後にした。


 しばらく呆然と(たたず)んで、壁に背を預けたまま、リーゼロッテはずるずると床に座り込んだ。

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