宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「すンばらシイ! これハ、あノ媚薬ではナいデスか! アア、分析シタイ! いまスグ精製シタイっ!」
「例のブツに間違いはないんだな?」
「ハイ、マギれもナくれいのぶつデス。コレをイッタイどこカラ……?」
「神殿だ。おい、デルプフェルト。この件は騎士団で預かるぞ。ハインリヒには黙っとけ」
「いやぁそういう訳には……」

 デルプフェルト家は王家の指示で動いている。いくら騎士団長の命令でも、従うわけにはいかなかった。

「いいんだよ。どうせこっちの動きは全部把握してんだろう? 好きにさせているのがハインリヒの答えってもんだ」
「強引ですね」

 カイは困ったように返した。確かにハインリヒは、騎士団の動きもフーゲンベルク家の動きも、すべて知った上で、結局は自由にさせている。表面上押さえつけてはいるが、そこに強い意志は見受けられなかった。

 騎士団はずっとこの媚薬の出所を探っていた。デルプフェルト家も別ルートで調査はしていたが、いずれにしても決め手となる情報は得られていない。
 もし媚薬が神殿内部で作られているとしたら、騎士団が踏み込むいい口実となる。王家と神殿は危うい力関係を保っているが、さすがに国を挙げての事件とあっては、神殿側も調査を拒むことはできないだろう。

「分かりました。ただしその植物の分析結果は、きちんと王に報告してくださいよ。あと神殿に乗り込むときも同伴させてもらいます。うちの手の者を危険には(さら)したくないので」
「仕方ねぇな。そのくらいは譲歩してやる」
「寛大なお心、感謝いたします」

 譲歩したのはむしろカイの方だが、バルバナス相手にそんなことを言っても時間の無駄だ。

(それよりもベッティだ)

 神殿を抜け出せないのか、自分の意思で(とど)まっているのか。届けられた物が物だけに、最悪の事態もあり得るかもしれない。

 リーゼロッテの件も気がかりではあるが、そこは公爵家が勝手に動くだろう。あそこには参謀(さんぼう)のマテアスがいる。このままジークヴァルトがおとなしくしているなど到底思えなかった。

 どのみちカイは神殿内部の調査を命じられただけだ。騎士団や公爵家の動きを、阻止する権限は持ち合わせていない。

(それがハインリヒ様の答え、か……)

 バルバナスの言うことも(もっと)もだ。これから起こるすべての事は、緊急事態の事後承諾で済ませよう。カイはそんなふうに腹をくくった。

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