宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
◇
エーミールは公爵家の屋敷の中を、いつものように巡回していた。
リーゼロッテが去ってから、異形の黒い影が増え始めた。どこに行っても重苦しい雰囲気だ。使用人たちのおしゃべりはトーン低めで、ギスギスしたやりとりも散見される。
日当たりのよいサロンにさしかかる。鬱陶しいほどはしゃぎまわっていた小鬼たちは、今ではほとんど見かけない。リーゼロッテ不在で使われることもなく、ここも閑散とした状態だ。
(人ひとりがいないだけで、こんなにも変わるものなのか……)
今の屋敷内はリーゼロッテが来る以前に戻っただけの話だ。それなのに、この状況に違和感を抱くのもおかしな話だろうか。
曲がった廊下、出会い頭に誰かとぶつかる。漏れかけた舌打ちは、すぐに驚きに変わった。
「エラ……」
「グレーデン様、申し訳ございません!」
エラは大きな包みを抱えている。それで前方がよく見えなかったのだろう。抱き留めた体を支え、エーミールはできるだけ平静を装った。
「いや、大丈夫だ。わたしも不注意だった」
「いいえ、わたしがきちんと前を見ていなかったせいです。申し訳ございませんでした」
エーミールの手を離れると、エラは頭を下げた。心ここにあらずと言った感じで、その顔色はあまりよくはない。
「エラ……ちゃんと休んでいるのか?」
「はい、お気遣いありがとうございます」
それだけ言うと、思いつめた表情でエラは黙り込んだ。リーゼロッテが行方不明となってから、ひと月以上は優に経つ。表向き王城にいる事になっているが、エラは真実を知る数少ない者のひとりだ。
「それを運ぶのか? ついでだ。わたしが持っていこう」
「いえ、重くはありませんから。グレーデン様のお手を煩わせることもございません」
エーミールは公爵家の屋敷の中を、いつものように巡回していた。
リーゼロッテが去ってから、異形の黒い影が増え始めた。どこに行っても重苦しい雰囲気だ。使用人たちのおしゃべりはトーン低めで、ギスギスしたやりとりも散見される。
日当たりのよいサロンにさしかかる。鬱陶しいほどはしゃぎまわっていた小鬼たちは、今ではほとんど見かけない。リーゼロッテ不在で使われることもなく、ここも閑散とした状態だ。
(人ひとりがいないだけで、こんなにも変わるものなのか……)
今の屋敷内はリーゼロッテが来る以前に戻っただけの話だ。それなのに、この状況に違和感を抱くのもおかしな話だろうか。
曲がった廊下、出会い頭に誰かとぶつかる。漏れかけた舌打ちは、すぐに驚きに変わった。
「エラ……」
「グレーデン様、申し訳ございません!」
エラは大きな包みを抱えている。それで前方がよく見えなかったのだろう。抱き留めた体を支え、エーミールはできるだけ平静を装った。
「いや、大丈夫だ。わたしも不注意だった」
「いいえ、わたしがきちんと前を見ていなかったせいです。申し訳ございませんでした」
エーミールの手を離れると、エラは頭を下げた。心ここにあらずと言った感じで、その顔色はあまりよくはない。
「エラ……ちゃんと休んでいるのか?」
「はい、お気遣いありがとうございます」
それだけ言うと、思いつめた表情でエラは黙り込んだ。リーゼロッテが行方不明となってから、ひと月以上は優に経つ。表向き王城にいる事になっているが、エラは真実を知る数少ない者のひとりだ。
「それを運ぶのか? ついでだ。わたしが持っていこう」
「いえ、重くはありませんから。グレーデン様のお手を煩わせることもございません」