宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 礼を取ると、大事そうに荷物を抱えて、エラは足早に離れていった。エーミールを振り返ることもない。リーゼロッテが消えてから、エラが笑っている姿も見かけなくなった。

 悲しみに沈んだ背を目で追っていく。ふいにエラが前方に何かを認めて、小走りに駆け寄った。その先にいたのはマテアスだった。

 マテアスが振り向くと、エラは少しだけ笑顔を見せた。どこかほっとした表情に、エーミールの胸がちりと痛みを訴える。
 何か会話をしたのち、抱えていた荷物をエラはマテアスに手渡した。マテアスも当たり前のように受け取って、そのままふたりは並んで廊下を歩き出す。

 いたたまれなくなって、エーミールは逃げるようにその場を離れた。自分はどこで間違えてしまったのだろうか。失った信用はそう容易(たやす)く取り戻せない。

(馬鹿馬鹿しい)

 そもそもエラとの間に未来などなかったのだ。家のために生きるのは貴族として当然のこと。この感情に、一体何の意味があるというのか。

(今はジークヴァルト様を支えねば)

 リーゼロッテが消えてから、彼はまるで生ける(しかばね)だ。エーミールの目から見ても、日増しに死相が濃くなっていくようで、どうにもできない自分がもどかしい。
 せめて屋敷の平穏は守ろうと、エーミールは巡回を再開した。

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