宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
◇
「マテアス!」
足早に歩く廊下を呼び止められ、マテアスは嫌な顔ひとつせず振り返った。
「今から執務室に戻るのですか?」
「はい。エラ様はそのお荷物、どうされたのですか?」
大きな包みを抱えた姿に首をかしげた。エラの立場なら、荷物など誰かに運ばせればいい。そうでなくとも彼女のためなら、何でもやるという人間がこの公爵家にはわんさかいる。
「これはお嬢様が東宮でお編みになっていたブランケットです」
「リーゼロッテ様のブランケットですか?」
「はい。明日は公爵様のお誕生日ですよね? マテアスからこちらを公爵様にお渡ししてもらえませんか?」
「それは構いませんが……わたしからでもいいのでしょうか?」
「お嬢様はこれを公爵様に差し上げる日を楽しみにしておられました。お嬢様ならきっと、公爵様のお誕生日に渡してほしいと思われるんじゃないかって……」
エラはそこで言葉を切った。唇をかみしめて、溢れそうになる涙を必死に堪えている。
「承知いたしました。こちらはわたしがお預かりさせていただきます。責任を持って明日、旦那様にお渡しいたしましょう」
包みを受け取ると、マテアスはエラを静かに見下ろした。色濃く浮かんだ目の下のクマが、眠れていないことを物語っている。
「リーゼロッテ様はわたしども公爵家が必ず取り戻してみせます。ですからリーゼロッテ様がいつお戻りになられてもいいように、エラ様は準備を万全にしてお待ちください。そのためにもエラ様は、しっかり眠って体調を整えてくださらないといけませんよ」
「はい……マテアス……ありがとう、マテアス」
唇を震わせたエラの瞳から涙がひと粒こぼれ落ちる。それを隠すように、慌ててエラは目をこすった。
「参りましょう」
見えなかったふりをして歩き出す。エラを部屋まで送ると、マテアスは一度自室へと戻った。息をつく間もなく、神殿の敷地の見取り図を広げる。ようやく手に入れたかなり詳細なものだ。
「マテアス!」
足早に歩く廊下を呼び止められ、マテアスは嫌な顔ひとつせず振り返った。
「今から執務室に戻るのですか?」
「はい。エラ様はそのお荷物、どうされたのですか?」
大きな包みを抱えた姿に首をかしげた。エラの立場なら、荷物など誰かに運ばせればいい。そうでなくとも彼女のためなら、何でもやるという人間がこの公爵家にはわんさかいる。
「これはお嬢様が東宮でお編みになっていたブランケットです」
「リーゼロッテ様のブランケットですか?」
「はい。明日は公爵様のお誕生日ですよね? マテアスからこちらを公爵様にお渡ししてもらえませんか?」
「それは構いませんが……わたしからでもいいのでしょうか?」
「お嬢様はこれを公爵様に差し上げる日を楽しみにしておられました。お嬢様ならきっと、公爵様のお誕生日に渡してほしいと思われるんじゃないかって……」
エラはそこで言葉を切った。唇をかみしめて、溢れそうになる涙を必死に堪えている。
「承知いたしました。こちらはわたしがお預かりさせていただきます。責任を持って明日、旦那様にお渡しいたしましょう」
包みを受け取ると、マテアスはエラを静かに見下ろした。色濃く浮かんだ目の下のクマが、眠れていないことを物語っている。
「リーゼロッテ様はわたしども公爵家が必ず取り戻してみせます。ですからリーゼロッテ様がいつお戻りになられてもいいように、エラ様は準備を万全にしてお待ちください。そのためにもエラ様は、しっかり眠って体調を整えてくださらないといけませんよ」
「はい……マテアス……ありがとう、マテアス」
唇を震わせたエラの瞳から涙がひと粒こぼれ落ちる。それを隠すように、慌ててエラは目をこすった。
「参りましょう」
見えなかったふりをして歩き出す。エラを部屋まで送ると、マテアスは一度自室へと戻った。息をつく間もなく、神殿の敷地の見取り図を広げる。ようやく手に入れたかなり詳細なものだ。