宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 神殿内は基本、女人(にょにん)禁制だ。リーゼロッテのように目立つ令嬢がいたら、すぐさま噂になるだろう。しかしそんな話は一向に聞こえてこない。
 地図上では神殿の奥深くは森が広がっているだけだ。だが騎士団が掴んだ情報では、一部の神官が奥まった方向へと足を運んでいるらしい。

(リーゼロッテ様が隠されているなら、やはりそこしかないか……)

 奪還(だっかん)を目指すのならば、正面から乗り込むより後方から回った方が確実かもしれない。
 アデライーデが騎士団と連絡を取り合ってくれるおかげで、公爵家では知り得ない情報も入手出来ている。しかし秘密裏で行われるやり取りは、タイムラグが生じている状況だ。

(迅速に動くには手駒が足りなすぎる)

 公爵家の切り盛りにいかに()けていようと、マテアスはただの使用人でしかない。王族や神殿、騎士団の力関係を(かんが)みて、それぞれの動きを予測するのは困難を極めた。
 選択を誤れば、公爵家が大ダメージを受けるのは目に見えている。かと言ってこのまま手をこまねいている訳にもいかなかった。正確な情報はもとより、臨機応変に動ける人材が必要だ。

 そんな人物にはひとりだけ心当たりがある。マテアスは急ぎ部屋を出た。廊下の先に目当ての人間を見つけ、迷わずその背に声をかける。

「エーミール様、大事なお話がございます。少しばかりお時間を頂けませんか?」
「マテアス……貴様ごときがわたしに何の用だ」

 エーミールは昔からマテアスを毛嫌いしている。使用人の立場で、ジークヴァルトに頼られているのが気に食わないのだ。その上、エラとの一件があった。マテアスの言葉に素直に耳を傾けるはずもない。

「たってのお願いがございます。エーミール様には王城騎士に志願していただきたいのです」
「王城騎士だと? わたしが忠誠を誓うのはジークヴァルト様だけだ。ふざけるのも大概にしろ」

 エーミールの反応は予想通りだ。しかしここで引くわけにはいかない。

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