宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 かちゃかちゃと鳴る知恵の輪は、一向に外れる様子はない。ぼんやりと手を動かしながら、リーゼロッテは小さく息をついた。
 ウルリーケの葬儀から数日、ずっと気持ちが沈んだままだ。命あるものはいずれ必ず死を迎える。不確かなこの世の中で、それは絶対と言える唯一のことだ。

(考えてみれば、わたしも一度死んだということよね……)

 自分には前世とも言える日本での記憶がある。生まれ変わりというものが、少なくともこの世界では存在しているということだろう。だが死んだ瞬間の記憶は何も残っていない。ただ日本で生きていたことが、知識として頭に残っているだけだ。

(日本での出来事が昔より曖昧(あいまい)になっているような気がするわ)

 どこの誰ともつかない日本人だった自分。それがどんどん「リーゼロッテ」に成り代わってきている。

(それもおかしな話かしら……?)

 この世界に生まれて、初めから自分はリーゼロッテだったはずだ。日本での記憶とこの世界での経験の境界が、薄れていっているだけかもしれない。

「お嬢様……明日は王城へ行く日ですので、そろそろお休みになられた方が」
「そうね。これが外せなくて、つい夢中になってしまって」

 動かせど知恵の輪は絡まったままだ。手渡すと、エラは何とはなしにそれを滑らせた。

「「あっ!」」

 知恵の輪はその手の中であっけなくふたつに分かれた。慌てたエラが再び重ね合わせる。元通りに絡み合った輪を見つめ、エラはばつが悪そうな顔をした。

「ぐ、偶然です」
「偶然でもすごいわ! わたくしあんなにやっても外せなかったのに」

 悔しがるでもなく、リーゼロッテはただ瞳を輝かせた。結局その夜眠りにつくまで、リーゼロッテは知恵の輪をいじり続けたのだった。

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