宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 一瞬、何を言われたのかが分からなくて、ジークヴァルトはマテアスの顔を見た。次いで怒りが込み上げてくる。こんな時に祝いの言葉など、伝える必要などあるというのか。
 殺意交じりに睨みつけると、マテアスが大きな包みを差し出してくる。一瞬眉間にしわを刻むも、奪い取るように手に取った。

「エラ様にお預かりしました。リーゼロッテ様からの祝いの品とのことです」

 彼女の波動が伝わってくる。その(いろ)に、こころの奥が大きく震えた。
 無我夢中で包みを開く。厚手のブランケットが腕の中、(こぼ)れ落ちるように広がった。リーゼロッテのにおいがふわりと舞って、たまらなくなり顔をうずめた。逃がさないように、確かめるように、きつくきつく抱きしめる。

「リーゼロッテ様を取り戻すとしたら、騎士団が動く時以外にチャンスはありません。その時がいつ来てもいいように、今はきちんとお眠りください。そんな死にそうな顔で足手まといになるようでしたら、旦那様は屋敷に置いていきますからね」

 それだけ言うとマテアスは執務室を出ていった。

 手にしたブランケットを頭からかぶる。ジークヴァルトを包んでも、なお余るほどの大きさだ。不揃(ふぞろ)いの編み目から、手製のものだと見て取れる。これだけのものを編むのは、さぞ大変だったことだろう。

 ソファの上、丸くなって目を閉じた。朝日が昇りきるまでジークヴァルトは、久しぶりに深い眠りに落ちたのだった。

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