宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 あれから数日、神官の監視が厳しくなった。ベッティとの食事の交換も、人目があってはすることはできない。
 ベッティがこっそり(かた)パンを置いていってくれるので、何とか飢えはしのげていた。だがそれは同時にベッティの食べる分が減るということだ。心なしかベッティも痩せたように思えて、リーゼロッテはとても心苦しかった。

(いっそこれを食べてしまおうかしら……)

 目の前の膳をじっと見つめる。あの男が言うように薬入りの食事を採った方が、ぼんやりして不安を感じなくなるだろう。お腹もいっぱいになるだろうし、何よりベッティから食べ物を奪わなくて済む。

『そんなマズイもの、リーゼロッテは食べちゃダメだからね。でないとお腹こわしちゃうんだから』

 ふいに聞こえた声に苦笑いをする。アルフレート二世をぎゅっと抱きしめた。

「ええ、分かってるわ。ありがとうアルフレート二世」
『どういたしまして』

 ベッティは黙々と掃き掃除を続けている。しゃべれない小間使いのふりは、完璧に続行されていた。今こうして落ち着いていられるのも、ベッティがそばにいてくれるからだ。だが彼女に自分を守る義務はない。

「ねぇ、アルフレート二世……あなたはもう、おうちに帰ってもいいのよ?」
『何言ってるのさ。ボクの居場所はリーゼロッテの隣だよ!』

 アルフレート二世がぷんぷんと怒ったように言う。

『それに悪い奴の言う事なんてあてにならないじゃない。大丈夫、僕がちゃんと守ってあげるからね』
「ありがとう、アルフレート二世……」

 涙が出そうになって、もふもふに顔をうずめた。あの男は次の満月が過ぎたら再び来ると言った。だがそれが守られる保証はどこにもありはしない。

 胸に下がる守り石は、色()せて随分とくすんでしまっている。あの日リーゼロッテを守るために、力を消費してしまったのだろう。次に襲われるときはもう、逃げることはできないかもしれない。

(怖い……)

 正気を保てているのが不思議なくらいだ。漏れる嗚咽(おえつ)を抑えられなくて、リーゼロッテはアルフレート二世をさらに強く抱きしめた。

「ヴァルトさま……」

 あの大きな腕を思って、リーゼロッテは眠りにつくまでずっと泣き続けた。

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