宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 いずれ侯爵家の(こま)になろうとも、ジークヴァルトへの忠誠は変わらない。そう心に決めて、エーミールは前を見据(みす)えた。

「グレーデン様……!」

 厩舎(きゅうしゃ)へ向かう途中、呼び止められる。驚きで振り返ったとき、息を切らしたエラが、(すが)りつくようにエーミールの片手を取ってきた。

「どうか、どうかお嬢様をお願いいたします」

 涙を浮かべ、両手でエーミールの手のひらを握りしめる。震える指先が冷たくて、エーミールは安心させるようにもう片方の手を重ねた。

「ああ、必ずリーゼロッテ様を連れて戻ろう。エラ、あなたは信じて待っていてくれ」
「はい……グレーデン様……」
「エーミールと」
「え?」
「名前ではもう、呼んではくれないのか?」

 しばし見つめ合った後、エーミールははっとなった。自分は何を女々しいことを言っているのか。

「あ、いや、今のは忘れてくれ」
「……エデラー家は間もなく貴族籍を抜けます。平民となる身で、そのように馴れ馴れしくお呼びするわけには参りません」

 笑うでもなくエラは静かに首を振った。もう二度と、彼女の心が自分に向く事はない。そう思い知らされて、エーミールは吹っ切れたような笑顔を見せた。

「ならば貴族であるうちは、エーミールと呼んでくれないか?」

 せめて信頼だけは取り戻したい。くだらないプライドだとは思ったが、最後にそれくらいは許される気がした。

「ではそのように」
「ああ、ありがとうエラ。行ってくる」
「はい、エーミール様、お気をつけて」

 やわらかく笑ったエラに背を向けて、エーミールはひとり王城へと向かった。

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