宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 エーミールを連れてカイは王城内を歩いていた。その後ろを一匹の犬がご機嫌でついて回っている。

「この犬は何なんだ?」
「リープリングだよ」

 名を呼ばれた犬は、カイに向けて激しく尾を振った。
 胴長短足で、皮膚がだるだるの骨太な犬だ。やたらと長い耳は、前足の付け根まで垂れ下がっている。だれんとした下まぶたが気だるげだが、見れば見るほど愛嬌ある顔に思えてくる。

「不細工な犬だな」
「ひどいなぁ。リープリングは女の子だからやさしくしてやってよ」

 しかめ面で距離を取ろうとするエーミールの股の中に、リープリングはいきなり鼻先を突っ込んだ。押しつけたままふんふんとにおいを嗅いでくる。

「なっ」
「はは、リープリングは格好いい男が好きなんだ。グレーデン殿は合格みたいだね」
「くだらないこと言ってないで何とかしろ!」
「リープリング、今は忙しいからまたあとで遊んでもらいな」
「わたしは相手などしないぞ」

 若干湿った股間を気にしながら、エーミールが不機嫌な声で言う。かなしそうにくぅんと鳴いたあと、リープリングはおとなしくふたりについていった。

「まぁ、大体こんなところかな?」

 神殿に近い場所をひと通り案内すると、カイは渡り廊下の入り口で歩を止めた。ここは神殿へと通じる唯一の道だ。とは言え、表向きはと(ただ)()きがつく。
 隠し通路はいくつかあるが、どのみちバルバナスは正面切って乗り込むだろう。カイはその後ろをついていくだけだ。こんな楽な話はない。

「ねぇグレーデン殿。そういえばジークヴァルト様って最近どう? 元気にしてる?」
「そんな事を貴様に説明する義理はない」
「ふーん、まぁいいけど。別に()びろとは言わないけどさ、ここだけの話、オレって媚薬よりも神殿の深部の調査してるんだよね。その先にジークヴァルト様の探し物があるなら、利用できるものは上手く使った方がいいと思うよ?」
「やはりリーゼロッテ様は神殿で(とら)われているんだな?」
「それ、こんな場所で不用意に聞いちゃうんだ?」

 肩を(すく)めたカイに、エーミールがあからさまに不快そうな顔をした。

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