宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「レミュリオ、聞いたか。貴族の間にもわたしの名が広く届いているようだな」
「そのようですね。ヨーゼフ様は次の神官長として相応(ふさわ)しい身。それも当然のことでしょう」
「そうか。お前もそう思うか」

 神殿に向かう廊下で、ヨーゼフは機嫌よくいつも以上に饒舌(じょうぜつ)だ。次期神官長候補にはヨーゼフとレミュリオの名が挙がっていた。それが気に食わなくて、ヨーゼフは常にマウントを取ってくる。
 年配のヨーゼフと若いが人望あるレミュリオは、神殿内で勢力を二分にしていると言っていい。それはそのまま今は亡きミヒャエル派と、神官長派という構図だった。

「やはり年の功と言うのは大事だな。若輩者(じゃくはいもの)のお前には神官長の座は荷が重いだろう」
「ええ。わたしも常々そのように申し上げているのですがね。神官長にも困ったものです」
「まったく彼はいつも弱腰だ。王家の言いなりになるなど頭が悪すぎる」
「ヨーゼフ様が神官長となれば、すぐにでも神殿の権威を取り戻せることでしょう」
「そうかそうか。お前もそう思うか」

 上機嫌のまま別れたヨーゼフを、エミュリオは薄い笑みで見送った。

「……なんとも(ぎょ)しやすい単純なお方だ」

 自尊心さえ満たしてやれば、それだけで意のままに操れる。(えさ)で尾を振る犬とそう大差ないだろう。

「飼い主に従順な犬の方がまだ使い物になりますかね」

 冷めた声で言い放つと、レミュリオは私室に向かった。飾り気のない質素な部屋だ。扉を閉めるなり紅い陽炎(かげろう)が、何もない空間にゆらりと揺らめいた。

「騎士団の動きが目立ってきていますね。神殿内にも曲者(くせもの)が何人も(まぎ)れ込んでいるようですし」

 陽炎に向かってひとり呟く。(おぼろ)げな(くれない)は、やがて妖艶(ようえん)な女を形どった。深紅のドレスを身に纏い、喉元(のどもと)禍々(まがまが)しく光るは龍の烙印(らくいん)と呼ばれる罪の(あかし)だ。

「うるさい羽虫たちの動きを少し封じるとしましょうか。異形を少々先導するくらいで構いません。貴女なら上手にできるでしょう?」

 その言葉に(くれない)の女の唇が弧を描く。輪郭がぶれたかと思うと、女はその場から掻き消えた。

「次の満月まであと半月ですか……心待ちにするものがあるというのも新鮮ですね」

 新月を明日に控え、レミュリオは窓の外、暮れゆく空に閉じた瞳を向けた。

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