宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 駆けだそうとして手首を掴まれる。その節くれだった手も燃えるように熱くて、マルコは思わず首を振った。

「ですがこんなに高熱が。医師が駄目なら神官長様を」
「いいから余計なことはしなくていい!」

 強く言われ、マルコはびくっと身を竦ませる。掴んだ手を離すと、ミヒャエルは再び気だるそうに身を沈めた。

「朝食もいらぬ。下げて今すぐいなくなれ」

 今度は弱々しく言われ、マルコは仕方なく盆を手に取った。

「またあとで氷をもってまいります」
 返事がないまま、マルコはミヒャエルの部屋を後にした。

 ひとり残されたミヒャエルは、苦痛を紛らわすように長く息をつく。

「イジドーラ王妃……」

 彼女を救うため、自分はこの身をやつしてきた。それなのに今ある状況は、到底許されるべきものではない。

 ――この体ではそう長くはもつまい

 (むしば)まれた右腕を切り落とすという手立てはある。今ならまだ間にあうのかもしれない。だがそんな安穏(あんのん)な道を、この()に及んで選ぶことなどできはしなかった。

「必ずや(むく)いてもらう」

 その時にこそ、真にイジドーラを手に入れるのだ。


 焼けつく痛みの果てにあるその至福だけが、今、ミヒャエルを支えていた。

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