宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 部屋を出て王城の廊下を歩く。そのエーミールの後を、ニコラウスが当たり前のようについてくる。

「バルバナス様のそばじゃ、エーミール様、人探しするには動きづらいっすね」
「いや、そうでもない。オレの行くべき場所も神殿の深部だ」

 リーゼロッテが囚われているとしたら、恐らく普段は人が行かないような神殿の奥深くだ。隠された施設があるだろう位置の目星を、エーミールはマテアスから事前に聞かされていた。それはバルバナスが()し示した場所と、大体のところ一致している。

 二日後の騎士団突入を知らせる密書を、先ほど公爵家の手の者に託して早馬で届けさせた。一日猶予(ゆうよ)があれば、ジークヴァルトも万全に準備を整えられるに違いない。

(ジークヴァルト様は裏手から神殿内に入る手筈(てはず)だ。危険が及ばないよう、わたしが中から手助けせねば……)

 自分がリーゼロッテを先に保護できれば、それに越したことはない。だがエーミールとしては、ジークヴァルトの身の安全を優先するつもりでいた。
 何しろジークヴァルトは王命で、公爵領から出ることを禁じられている。それを破ったことがばれでもしたら、彼の未来は暗黒に塗りつぶされてしまう。

(すべてはジークヴァルト様のためだ)

 本当ならこのまま屋敷で待機していてもらいたい。だがあの憔悴(しょうすい)した姿を()の当たりにすると、自分の手で取り戻したいというジークヴァルトの思いを、エーミールも無下(むげ)にはできなかった。

「妖精姫のことはオレもできる限り協力するんで」
「いや、お前にも成すべきことはあるだろう」

 気づかわしげな視線をニコラウスが向けた時、遠くから複数人の悲鳴が聞こえてきた。一瞬だけ目を見合わせて、ふたりは同時に駆けだした。

 王城勤めの文官や使用人たちが、廊下の端々(はしばし)でうずくまっている。その周辺で黒い異形の影が縦横無尽(じゅうおうむじん)(うごめ)いていた。

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