宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 エーミールが部屋を見回す。部屋に内鍵はなく、扉にのぞき穴がくり抜かれている。牢と言うには調度品がまともで、私室と言うには厳重すぎる造りだった。

「いや、確かにリーゼロッテ嬢はさっきまでここにいた」

 この部屋からリーゼロッテの力が色濃く感じ取れる。格子のはめられた窓に近づき、カイは桟に置かれた金属を手に取った。片方しかないが、これはリーゼロッテが持っていたフーゲンベルク製の知恵の輪だ。
 椅子のそばの壁にいくつも線が刻まれている。日付を数えるためにつけたのかもしれない。あのリーゼロッテならやりそうなことだ。

(ベッティはリーゼロッテ嬢といたのか……?)

 緑の力に紛れて、ほのかにベッティの力の残り香を感じる。注意深く部屋を探り、カイは扉のすぐ脇の床の一部に目を留めた。
 短剣で床板を無理やりはがす。中からは一枚の紙が出てきた。デルプフェルト家秘伝の暗号で書かれた文章が、ベッティの文字で綴られている。

「これは……」

 そこに書かれていたのは媚薬畑の詳細な位置だ。その紙を手にカイは硬い表情で立ち上がった。

「ブラル殿はこの紙を持って、一度バルバナス様の所に戻ってもらえるかな? グレーデン殿はオレと来て。リーゼロッテ嬢の行方はベッティが知っている可能性が高い」
「ベッティ? あのふざけた侍女か?」

 エーミールの言葉を無視してカイは神官服を脱ぎ捨てた。こうなれば動きづらい分だけ不利になる。

 三人は来た廊下を戻り雪の積もる外へと出た。ベッティの暗号を携えて、ニコラウスだけが神官が歩いてきた小道を戻る。

「リープリング!」
 カイの呼びかけに、茂みからリープリングが飛び出してきた。

「ベッティのにおい、まだ追えるよね?」

 ふんふんと鼻先を近づけると、リープリングは激しく尾を振った。そのまま辺りを嗅ぎまわり、ひとつの方向へと進み始める。

「この犬についていけば、リーゼロッテ様がいるんだな?」
「分からない。でもこれが今できる最善だ」

 閉じ込められていただろう部屋はもぬけの空だった。廊下で倒れていたオスカー。ベッティとやり合った可能性も十分考えられる。

 どんな事態になっているのか状況が把握できない。ふたりはただ、リープリングのあとを辛抱強くついていった。

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