宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「しかしなんで神殿にこんな数の異形が」
「知らん」

 互いにフォローし合いながら前進していく。しかし異形は尽きることはなく、さらに数を増してきた。
 気配を探ると、何もない空間から突然現れているかのようだ。背中合わせにとうとう足止めをされる。さすがにこれはおかしいと、ふたりで息を切らした。

「弱いとはいえ、多勢に無勢……いかがなさいますか、旦那様?」
「そんなこと決まり切ってるだろう」

 手の内に籠めた力を、ひと方向に解き放つ。

「一点突破だ!」

 切り開かれたその先へ、ジークヴァルトは迷わず駆けだした。そこをフォローしながらマテアスが続く。
 鬼神のようなその背中から青の力が立ち昇る。溜まりに溜まった怒りが放電するように、その身から溢れ出していた。その勢いに気圧されて、かなりの数の異形が遠のいていく。

「オッオエ――っ!」

 突如、森の遠くからおかしな雄叫びが響いた。その声は鳥のような羽ばたきと共に、どんどんこちらに近づいてくる。

「鳥?」

 こんな夜更けに飛ぶのはフクロウか夜鷹(よたか)か。それにしては羽ばたきが派手すぎる。マテアスが眉をひそめたとき、いきなり異形の塊から一羽の(にわとり)が宙に躍り出た。

「オエ――――っ!!」

 涙をまき散らしながら、鶏はジークヴァルトの胸に飛び込んだ。異形に追われていたのか、ぶるぶると全身を震わせている。

「に、鶏……?」

 呆然とするマテアスを横に、ジークヴァルトははっとなった。鶏が(くわ)えていたものを取り上げる。銀色の知恵の輪が、緑の尾を引いていく。

「これはリーゼロッテ様にお渡しした知恵の輪……」
 外れた片方だけだが確かにこれは、リーゼロッテの誕生日にマテアスが預けたものだ。

「旦那様……」
「ああ、もう容赦する必要はない」

 先ほどよりも激しい青が全身から立ち昇る。この日以上にジークヴァルトが怒りをあらわにしたことはない。絶対に敵に回してはいけない人だと、マテアスが思った瞬間だった。

「オエッ」
 鶏がマテアスの頭の上に移動した。先に進めと言うように、片羽をまっすぐ突き立てる。

「行くぞ!」
「どこまでもお供いたします!」

 再びふたりは、異形の塊の先へと突き進んでいった。

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