宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 夕食も下げられて、ベッティも神官に連れられて行ってしまった。この時間から明け方まではひとりきりの時間だ。日も沈み真っ暗になった外を眺めながら、リーゼロッテは小さく息をついた。

 晴れた日の夜空に浮かぶ月はどんどんやせ細っていた。そろそろ新月を迎えて、これからは月は丸く肥えていくのだろう。

(満月が過ぎたらあの神官がまたやってくる……)

 知恵の輪の柄で壁に正の字を刻んでいく。これが三十になるころがその時を迎えてしまう。日増しに増えていく傷の数に、リーゼロッテは唇をかみしめた。
 日中は明るく振る舞っても、夜になるとどうしても気持ちが沈む。無心になろうと知恵の輪をいじり続けた。

「駄目だわ。ちっとも外れない」

 途中で真剣に夢中になっていた自分に呆れつつ、()を持って知恵の輪をくるくる回す。すると遠心力で浮いていた片方が、いきなり放物線を描いて遠くへ飛んでいった。

「は、外れたっ!」

 金属音がどこかで跳ねる。見失ったリーゼロッテは、床の上を探し回った。

「あ、あったわ。……ほんとに外れてる」

 ここ半年近くあれだけいじり倒して分離しなかった物が、適当に回しただけであっさり外れてしまった。自力でできなかった分、なんだか悔しく感じられる。

「今度は組み合わせてみようかしら?」

 重ね合わせるも今度は一向にひとつにならない。マテアスもエラもカイも事もなげにやってのけたのに、なぜに自分はこうも上手くできないのだろうか。
 一心不乱にいじっていると、ふいに窓をこつこつ叩く音がした。初めは風の音かと無視していたが、こここここと連打され始めてリーゼロッテはようやく顔を上げた。

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