宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
      ◇
 ここへ来るのは久しぶりだ。王妃の夜会が開かれるのは明日だが、前乗りで今日王城へとやってきた。見知った廊下を歩きながら、リーゼロッテはジークヴァルトの顔を見上げた。

「今日はこちらに泊まるのですか?」
「ああ。それに今夜は王太子殿下の晩餐(ばんさん)に招かれている」
「晩餐に……?」
「公式なものではなくあくまで個人的な招待だそうだ。王太子妃殿下も同席される。緊張しなくてもいい」

 その言葉にリーゼロッテは瞳を輝かせた。

(アンネマリーにも会えるのね!)

 前回会った新緑の夜会では、言葉を交わすことすらできなかった。アンネマリーはいずれ王妃となる立場だ。これからはますます気軽に話すことなどできなくなるのだろう。

 ふと廊下の柱の陰の黒い吹き溜まりが目に入る。暗い感情が渦巻いて、そこからぶつぶつとひとり呟く声が聞こえてきた。
 異形の者はどこにでもいる。人の出入りが激しい場所では、その数も特に多かった。すべての者の話を聞いて回って、ひとりひとり天に還すことなどできるはずもない。

(分かってはいるけれど……)

 異形は未練を残して死んだ者の成れの果てだ。人間だった時の記憶も失くし、ただ負の感情に囚われたまま、もがき苦しみ続けている。死してなお安らぎを得られない彼らは、なぜ絶えることがないのだろう。

 去年、リーゼロッテは守護者の力によって、王城中の異形の者をすべて天に還した。だが異形たちがいなくなったのはほんの僅かな期間だけだ。数日後には彼らはそこかしこに、当たり前のように存在していた。

 そのことを思い出しながら、何もできないまま異形たちの横を通り過ぎる。ほどなくしてリーゼロッテは、以前滞在していた客間へとたどり着いた。


< 36 / 391 >

この作品をシェア

pagetop