宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「しっかり掴まっててくださいませねぇ!」

 腹を蹴り、一気に駆けさせる。その瞬間、ベッティはリーゼロッテの三つ編みを短剣で断ち、それを手にしたまま馬の背から飛び降りた。

「ベッティ……!」
「いきなさい、リーゼロッテ・ダーミッシュ! あなたはこんな所で終わっていい人間じゃあないっ!」

 馬上で振り返ったリーゼロッテの髪が風に短く広がった。馬の背は小さくなり、あっという間に暗闇に飲まれていく。
 どうあっても彼女は自分と同じ人種ではない。誰からも望まれる立場の、この手には届きもしない存在だ。

 早くしないと奴の気配はどんどん強まっている。ベッティは痛めた足を引きずり、リーゼロッテのいた部屋に急ぎ戻った。
 残っていたリーゼロッテの服に着替え、まとめ髪をばらばらと解く。ベッティの白髪(はくはつ)なら、暗がりではリーゼロッテの金髪と見間違えてもらえるだろう。それにこのアルフレート二世を抱えていれば、もう完璧だ。

 だが奴は力を感知できるはずだ。リーゼロッテの髪は目くらましのようなものだった。握っているだけでも痛いくらいに伝わってくる清廉な力は、切り取られても尚強大な緑の彩を放ち続けている。
 アルフレート二世の背中の縫い目を短剣で切り裂いて、リーゼロッテの三つ編みを綿(わた)の中に押し込んだ。

 そのアルフレート二世を抱えたまま、ベッティは再び外へと出た。先ほどよりも青銀の神気が確実に濃くなってきている。だがベッティもみすみすやられるだけのつもりはない。目指すのは媚薬の薬草畑だ。
 そこまで行けば騎士団が(じき)に到着する。自分の命を繋ぐには、それに賭けるしかなかった。

(確かこっちの方角だったはず)

 背後に迫る圧を感じながら、雪の中を進んでいく。次第にあの特有の香りが強くなってくる。最後に雪山を切り崩し、ベッティは森の中、開けた薬草畑へと出た。

「こんな方向に逃げるとは、なんとも愚かしい。ですがそれも貴女の運命だ」

 遠くから背に声をかけられる。ベッティは畑を迂回(うかい)し、森の太い木へと身を寄せた。こうなればもう逃げも隠れもする意味はない。あとはどれだけ時間を稼いで、リーゼロッテを遠くに逃がすかだ。

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