宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 リーゼロッテの仕草を真似て、ぎゅっと胸に抱きしめる。緑の力を放つアルフレート二世を(たて)にして、ベッティは隠すように顔をうずめた。震えているのは演技だけではない。近づく神気に、呼吸すらままならなくなる。そこをなんとか踏ん張って、ベッティは歯を食いしばった。

「逃げるのはもうお終いですか? いい加減貴女もお判りでしょう。神であるわたしから逃げることなどできないのだと」

 すぐそこで立ち止まったのは銀髪の美貌の神官だった。閉じた瞳で静かにほほ笑んでいる。
 それだけ見たら慈愛に満ちたやさしげな表情だ。だが体を押しつぶす圧に、立っているのもやっとなベッティだ。

(けどビンゴでしたねぇ)

 カイの言う黒幕は、やはり想像通りレミュリオだった。なぜ青龍はこの男の名を目隠しするというのか。

「さぁ参りましょう。ここは寒い。か弱い貴女がいる場所ではありません」

 さらに近づき手を伸ばしてくる。最期(さいご)にきちんと動けるようにと、血が出るほど唇を噛んでベッティは必死に正気を保った。

 伸ばされた手が一瞬止まった。次の瞬間、包む神気が炎獄に変わる。

「これは……してやられましたね。子鼠風情に(たばか)られるとは」
「ふふぅ、ざまぁみろですよぉ」

 脂汗を流しながら、ベッティは不敵に(わら)った。勝算は薄いが一か八か、やってみるだけのことはある。忍ばせた眠り針を手に、その機会を狙った。言葉とは裏腹に、レミュリオは隙なく薄い笑みを保っている。

 素早すぎて動きが見えなかった。衝撃で木に背が打ちつけられる。アルフレート二世の腹の中から、レミュリオはリーゼロッテの髪を掴み出していた。
 えぐり取られた綿が雪のように舞い落ちる。目の前に掲げられた髪の束は、一瞬で青銀色の(ほのお)に包まれた。飲まれるようにリーゼロッテの緑が消える。防御壁がなくなって、ベッティはさらに苦悶(くもん)の表情になった。

 倒れ込むふりをして、力を振り絞り眠り針を首筋に放つ。しかし針は届くことなく、青銀の力に弾かれた。

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