宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「どうにも目障りですね」
「がっは……!」
喉元を片手で掴まれて、ぎりぎりと締め上げられる。木伝いに持ち上げられて、つま先が宙に浮いた。
視界が霞んで見える。朦朧とした意識の中、ベッティはレミュリオの顔めがけて唾を吐いた。
「そんなにわたしを怒らせたいのですか? 愚かな子鼠だ」
横殴りにされベッティの体が雪の中転がった。もうチャンスは今しかない。受け身を取りながら素早く導火線に着火する。
湿気らないようにと手にした煙玉を放り投げた。破裂音が空中で、闇夜に遠く轟いた。次いで発生した黒煙が辺りにもくもくと降り注ぐ。
生きて帰れない時のために用意した煙玉だ。黒幕が奴なら黒煙を、違ったら白煙をあげると決めていた。この煙はべっとりと雪や木々に付着する。日が昇ってからでも十分、カイにこの事実は伝わるだろう。
「今の音で騎士団がやってきますよぉ。このままここにいていいんですかぁ?」
媚薬畑が見つかれば、ここにいるレミュリオが知らぬ存ぜぬで通せるはずもない。無様に雪の中でひっくり返りながら、ベッティは馬鹿にしたようにへらりと嗤った。
「小賢しい真似を」
ぱちりと鳴らされた指の背後で、媚薬畑が焔に包まれる。青々と茂っていた畑は、一瞬で何もない更地となり果てた。そこを都合よく雪が舞い落ちる。不自然に畑の場所だけが吹雪いてきて、あっという間に雪景色が広がった。
「くだらぬ時間を過ごしました。まぁいいでしょう、今回は自由にしてさしあげますよ。ああ貴女ももう引いてください。この後は龍の盾の彼に任せるとします。どのみち今回の件でわたしを裁くことは愚か、誰もこの名を出すことすらできないのですから。何も問題はありません」
遥かに意識を傾けて、レミュリオは独り言のように言った。ベッティのことなど忘れたかのように、背を向け音もなく去っていく。
遠退いていく神気に、妨げられていた呼吸が楽になってくる。
その代わり雪の冷たさが全身を襲う。打ち付けられた体は、もう指一本すら動かせなかった。だが結果は上々だ。
リーゼロッテを逃し、奴の正体も伝えられた。最期にカイの役に立てたのだ。ベッティはそれで満足だった。
心残りなのはカイとの約束を果たせなかったことだ。いつかいなくなるカイのために、ベッティは新しい安寧の地を見つけることを約束した。
「カイ坊ちゃまはやさしくって心配性ですからねぇ」
もう一度だけ頭をなでてもらいたかったな。そんなことを思って、ベッティの唇が自然と弧を描く。
訪れる眠気のまま、ゆっくりと瞳を閉じた。
「がっは……!」
喉元を片手で掴まれて、ぎりぎりと締め上げられる。木伝いに持ち上げられて、つま先が宙に浮いた。
視界が霞んで見える。朦朧とした意識の中、ベッティはレミュリオの顔めがけて唾を吐いた。
「そんなにわたしを怒らせたいのですか? 愚かな子鼠だ」
横殴りにされベッティの体が雪の中転がった。もうチャンスは今しかない。受け身を取りながら素早く導火線に着火する。
湿気らないようにと手にした煙玉を放り投げた。破裂音が空中で、闇夜に遠く轟いた。次いで発生した黒煙が辺りにもくもくと降り注ぐ。
生きて帰れない時のために用意した煙玉だ。黒幕が奴なら黒煙を、違ったら白煙をあげると決めていた。この煙はべっとりと雪や木々に付着する。日が昇ってからでも十分、カイにこの事実は伝わるだろう。
「今の音で騎士団がやってきますよぉ。このままここにいていいんですかぁ?」
媚薬畑が見つかれば、ここにいるレミュリオが知らぬ存ぜぬで通せるはずもない。無様に雪の中でひっくり返りながら、ベッティは馬鹿にしたようにへらりと嗤った。
「小賢しい真似を」
ぱちりと鳴らされた指の背後で、媚薬畑が焔に包まれる。青々と茂っていた畑は、一瞬で何もない更地となり果てた。そこを都合よく雪が舞い落ちる。不自然に畑の場所だけが吹雪いてきて、あっという間に雪景色が広がった。
「くだらぬ時間を過ごしました。まぁいいでしょう、今回は自由にしてさしあげますよ。ああ貴女ももう引いてください。この後は龍の盾の彼に任せるとします。どのみち今回の件でわたしを裁くことは愚か、誰もこの名を出すことすらできないのですから。何も問題はありません」
遥かに意識を傾けて、レミュリオは独り言のように言った。ベッティのことなど忘れたかのように、背を向け音もなく去っていく。
遠退いていく神気に、妨げられていた呼吸が楽になってくる。
その代わり雪の冷たさが全身を襲う。打ち付けられた体は、もう指一本すら動かせなかった。だが結果は上々だ。
リーゼロッテを逃し、奴の正体も伝えられた。最期にカイの役に立てたのだ。ベッティはそれで満足だった。
心残りなのはカイとの約束を果たせなかったことだ。いつかいなくなるカイのために、ベッティは新しい安寧の地を見つけることを約束した。
「カイ坊ちゃまはやさしくって心配性ですからねぇ」
もう一度だけ頭をなでてもらいたかったな。そんなことを思って、ベッティの唇が自然と弧を描く。
訪れる眠気のまま、ゆっくりと瞳を閉じた。