宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「旦那様、川から離れすぎないでくださいよ!」
「分かっている」

 闇夜の森、せせらぎを耳に進む。予定より多少遅れているが、絶えることなく襲ってくる異形たちを前にそれでも前進できている。いまだ力が尽きていないのは、弱い異形しかいないからだ。

 普段は襲ってくることない彼らが、追い立てられるように寄ってくる。怯えながら近づいて、近づいては逃げていく。そして祓われた一群を補うように、再び異形が現れる。
 攻撃してくるでもない異形相手に、もうコツは分かってきた。進むべき方向のみ、祓っていけばいい。それがいちばん効率の良いやり方だ。

「地図通りだったら、あと少しで目星をつけた場所に出るはずです。そこまで行ったらわたしが先導しますから、闇雲に飛び出さないでくださいよ」
「ああ」

 分かっているのかいないのか、ジークヴァルトは遠い先だけを見つめている。鬼気迫る背中に、それ以上はマテアスは何も言えなかった。

「オエっ!」

 マテアスの頭に鎮座したままの鶏が、片羽で進行方向を指さした。この鶏は時折今の仕草をする。どうやら道を外れた時に、そっちじゃないと教えているようだった。

 その鶏が立ち上がり、大きく羽をばたつかせた。頭皮に爪が食い込んで、マテアスから悲鳴が上がる。

「いたっいたっ、そんなに掴んだら禿()げます!」
「オッオエ――!」
「うおっ」

 目の前が(くれない)に染まって、マテアスの体は押し流された。突然の瘴気(しょうき)濁流(だくりゅう)になす(すべ)もない。全身が(あわ)立って、気づくとマテアスは森の小路に立っていた。異形もいない。頭に鶏が乗っているだけだ。

「旦那様?」

 はっとして気配を探る。しかしジークヴァルトの姿はどこにもなかった。先ほど一瞬感じた紅の瘴気は、いつか公爵家を襲ったものだ。それが今は微塵も感じ取れない。

「一体何が……」
「オエっ」

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