宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
◇
紅い霧の中、朧げだった姿がはっきりとした輪郭を取った。いつかの夜会でリーゼロッテを襲った異形の者だ。禁忌の罪を犯した証を喉元に光らせ、対峙した女は妖艶な笑みを口元に刷く。
相手が何者だろうと関係はなかった。邪魔をするなら力ずくで排除する。それだけの単純な話だ。
間合いを詰め、手の内に力を溜める。その様子をたのしそうに、紅の女はじっと見つめていた。
ふいに耳に馬の嘶きが届く。逸れた注意の隙に、紅の女が大きく後方に飛び退いた。はっと視線を戻すも、濃厚だった瘴気がすぅっと引いていく。溶け込むように禁忌の異形は、闇の中に消えていった。
しばしその場に佇むも、女が戻って来る様子はない。溜めた力を解いてジークヴァルトは蹄の音を耳で追った。ほどなくして一頭の馬が現れる。
鞍はついているものの、誰も乗ってはいない。
ジークヴァルトの姿を認めると、馬は体を翻し来た道へと鼻先を向けた。振り返り、再び歩き出す。数歩進んだかと思ったら、またこちらを振り返った。
「ついて来いと言うのか?」
肯定するように、馬は小さく嘶いた。ジークヴァルトが歩を進め出すと、馬も一定速度で歩き出す。
見上げる空が徐々に白んでくる。木々が鬱蒼と生い茂る森に日が射しこむのは、まだ時間がかかりそうだ。
「リーゼロッテ……」
つぶやいて、ジークヴァルトは馬を見失わないよう、川沿いに奥へと進んでいった。
紅い霧の中、朧げだった姿がはっきりとした輪郭を取った。いつかの夜会でリーゼロッテを襲った異形の者だ。禁忌の罪を犯した証を喉元に光らせ、対峙した女は妖艶な笑みを口元に刷く。
相手が何者だろうと関係はなかった。邪魔をするなら力ずくで排除する。それだけの単純な話だ。
間合いを詰め、手の内に力を溜める。その様子をたのしそうに、紅の女はじっと見つめていた。
ふいに耳に馬の嘶きが届く。逸れた注意の隙に、紅の女が大きく後方に飛び退いた。はっと視線を戻すも、濃厚だった瘴気がすぅっと引いていく。溶け込むように禁忌の異形は、闇の中に消えていった。
しばしその場に佇むも、女が戻って来る様子はない。溜めた力を解いてジークヴァルトは蹄の音を耳で追った。ほどなくして一頭の馬が現れる。
鞍はついているものの、誰も乗ってはいない。
ジークヴァルトの姿を認めると、馬は体を翻し来た道へと鼻先を向けた。振り返り、再び歩き出す。数歩進んだかと思ったら、またこちらを振り返った。
「ついて来いと言うのか?」
肯定するように、馬は小さく嘶いた。ジークヴァルトが歩を進め出すと、馬も一定速度で歩き出す。
見上げる空が徐々に白んでくる。木々が鬱蒼と生い茂る森に日が射しこむのは、まだ時間がかかりそうだ。
「リーゼロッテ……」
つぶやいて、ジークヴァルトは馬を見失わないよう、川沿いに奥へと進んでいった。