宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 ふいに遠くへ飛んでいった妖精を必死で追いかける。小さい上にすばしっこくて、すぐに見失ってしまった。森の中、ひとりは耐えられなくて、リーゼロッテは木々の中を(すが)るように見回した。

 ちょんちょんと肩をつつかれる。驚いて振り向くと、すぐそこに妖精が浮いていた。

 今度はゆっくりと飛び始める。リーゼロッテを誘うように、振り向いては少し進んでいく。それを追いかけると、目の前に舗装された小路が現れた。雪の積もっていない、まっ平らな地面だ。

 妖精の導きで、路なりに歩を進めていく。すると小鳥のさえずりの中、行く方向に馬の(ひづめ)の音が聞こえてきた。

「あ、馬さん! ありがとう、馬さんのところまで案内してくれたのね!」

 瞳を輝かせてお礼を言うも、妖精の姿はすでになかった。今度こそはぐれないようにと、リーゼロッテは小路を急いだ。

 曲がりくねった小路の先、木々の間から馬影が垣間見えた。ほっとして駆け寄ろうとする。だがその横に馬を引く人物がいて、リーゼロッテは思わずその足を止めた。

「ジーク……ヴァルト様……?」

 信じられないが、あれが幻だったら今度こそ心が死んでしまいそうだ。

 声も届かない距離にもかかわらず、ジークヴァルトははっとこちらを見やった。馬の手綱を離し、一目散にこちらに向かってくる。夢にまで見たあのジークヴァルトが。

 気づいたら駆けだしていた。うす汚れた服も、ざんばらな髪も、痛む裸足のことも何もかも忘れて、なりふり構わず胸に飛び込んだ。
 強く強く抱擁を交わす。

「リーゼロッテ」
「ジークヴァルト様……」

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