宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 ずれ込んだ公務のせいで、予定より遅れてしまった。とは言え、待たされたところでジークヴァルトはリーゼロッテと一緒にいるのだ。ふたりきりの時間が持てて、感謝こそすれ文句を言い出すはずもないだろう。

 早く顔が見たくて、急ぎ足でアンネマリーの元へと向かう。人の目を気にせず彼女と過ごせる時間がくるのだ。ハインリヒ自身、心待ちにしないでどうするといったところだった。

「アンネマリー、待たせたね」
「ハインリヒ」

 会うなり強く抱きしめる。清楚なイブニングドレスを身にまとった姿に、今すぐ部屋に連れ帰りたい衝動を必死に抑えた。
 ほかの男にこんなアンネマリーを見せたくなどないが、警護の騎士を追い出すわけにもいかない。仕方なくハインリヒは、周囲の男どもを睨みつけるだけにとどめおいた。

 晩餐の部屋に行くと、先に待っていたジークヴァルトとリーゼロッテが同時に席を立った。

「ふたりともよく来てくれた」
「王太子殿下、本日はお招きいただきありがとうございます」
「今日は非公式な招きだ。そうかたくならなくていい」

 リーゼロッテに笑みを向けると、すかさずジークヴァルトが眼光鋭く睨みつけてくる。その殺気立った視線に、ハインリヒの口元に苦笑が漏れた。確かに今日のリーゼロッテの装いは美しくは思えるが、アンネマリーの前では霞んでしまって心が動かされることもない。

 しかしジークヴァルトの気持ちはよく分かる。不躾(ぶしつけ)にアンネマリーを見られたら、ハインリヒとて同じ反応をするのだから。

「リーゼロッテ、久しぶりね」
「アンネマリー様」
「敬称はいらないわ。今日はいつも通り呼び捨てにしてちょうだい」
「アンネマリー、その、今日はこんな素敵なドレスをありがとう……」
「リーゼには一度シックなドレスを着せたいって思っていたの。本当によく似合っているわ」

 頬を染めながら言うリーゼロッテに、アンネマリーはいたずらな笑みを返した。けん制するようにジークヴァルトが周囲に控える男たちを睨みつけている。今日のリーゼロッテの大人びた装いに、彼も相当動揺しているに違いない。

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