宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 脱がされかけていた服装を正す。その手を離れようとするも、ディートリヒは逆に力を()めてきた。

「イジィがオレの本気を分かっていないことが痛いほどよく分かった。いや、いい、これはオレの努力の怠慢(たいまん)だ。今から一から教え直すから何も心配はいらない」
「え、あの、ディートリヒ様……?」

 再び服を脱がされ出して、困惑気味にその名を呼んだ。不服そうな金の瞳が、イジドーラを見つめ返してくる。

「いい機会だから言っておくが、オレははじめからずっとイジィ一筋だ」
「ですがセレスティーヌ様とは、託宣の(つがい)同士でございましょう?」

 その存在は半身を分け合った掛け替えのないものらしい。(つがい)を失った託宣者は、生きる意味をも失うと聞く。そのセレスティーヌを早くに亡くし、ディートリヒは長く孤独に耐えてきた。その穴を埋める役割をセレスティーヌから乞われ、イジドーラはこうして張りぼてながら、それを必死に果たしてきたのだ。

「まったく……セレスティーヌはいつまで経っても邪魔をする。あれはオレにとって(つがい)と言うより、いわば好敵手(ライバル)みたいなものだ」
「好敵手?」
「ああ、セレスを女として見たことはない。それにあれを抱いたことも一度もないぞ」
「え? ですが」

 ふたりの間にはハインリヒを含めて三人の子ができた。王に似ていない子供たちに、貴族の間でセレスティーヌの不義の噂が流れたが、ずっとそばにいたイジドーラはそんなことは絶対にあり得ないことを知っている。

「セレスは胸を患っていた。子作りなど負担になる行為はしたくないと言ってきたのは向こうの方だ。だからオレは子種だけをセレスに差し出した」
「子種だけを……?」
「ああ……イジィを思って吐き出した精を、オレはあれに手渡しただけだ」

 耳元で言われイジドーラの頬が染まった。頭ではその言葉の意味は分かったが、ディートリヒの言っていることに理解が追いつかない。

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