宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
      ◇
司祭(しさい)枢機卿(すうきけい)はいまだ行方知れずか……)

 一晩たってミヒャエルが見つかったという報告は上がってきていない。夜には王妃の誕生日を祝う夜会が開かれる。自分ももう少ししたら出席の準備を始めなくては。

 夜会がある日でも、やる事は山積みだ。父王からほとんど執務を任されるようになった今では、ぎりぎりまで机にかじりつくほかなかった。
 アンネマリーは昼前には公務を切り上げて、今頃は支度に大忙しだろう。こんなとき女性は大変だなどと暢気(のんき)に思う。それに比べれば男の着替えなど一瞬のことだ。

(今夜はアンネマリーとは踊れないだろうな)

 今日の主役はイジドーラだ。ファーストダンスは王と彼女で踊る。そのあとにダンスフロアは開放されるが、この自分が多くの貴族と入り混じって輪に加わるわけにはいかない。万が一女性とぶつかったら、夜会は大騒ぎになってしまう。

 それでもアンネマリーと並び立てる今がとてもしあわせだ。彼女の存在が、こんなにも自信を与えてくれる。
 これからは執務だけでなく、国に関するすべてを引き継いでいく。自分の力で貴族たちをまとめあげ、隣国との外交や神殿との関係も円滑に運ばねばならない。

(アンネマリーが子を宿した時点で、わたしはこの国の王となる)

 恐らくそれは、そう遠くない未来の話だ。
 浮かれてばかりもいられないと、ハインリヒは改めて気を引締めた。

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