宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 あれはまだ神官になりたての頃のことだ。

 失敗続きで先輩神官に怒られる毎日を送っていたミヒャエルは、ひとりになりたいときよくここに来ていた。神殿の外れにあるこの場所は、木々に囲まれ人気(ひとけ)なくとても心地よい。

 ミヒャエルは片田舎の小さな街で生まれ育った。幼いころからこの目は人には視えぬものを映し、耳は聞こえぬ声を(とら)えることができた。時に異形の嘆きだったり、時に森に住む精霊たちのささやきだったり、また時には先に起こる出来事を夢に見ることすらあった。

 家族を含む周囲の人間に奇異の目で見られながらも、神童としてミヒャエルの名は遠く王都に知れ渡っていった。その力を見出され神殿の門をくぐるに至ったのは、今思うと必然だったのだろう。

 若いミヒャエルは希望に満ちていた。神殿に行けば自分と同じく(たぐい)まれな力を持つ者が待っている。王都の本神殿となれば、国中から選ばれた者たちが大勢いるに違いなかった。

 だがおごってはいけない。この力は本来誰もが持っているものだ。みなが忘れ去っているだけで、ミヒャエルが特別なわけではないのだと、森の精霊たちはいつでもそう教えてくれていたから。

 しかしその期待はすぐに落胆(らくたん)に変わっていった。神官たちの多くは大した力もなく、欲にまみれる者ばかりだった。保身のために、目障(めざわ)りな人間を引きずり下ろす。そんなことに労力をかける暇があるなら、もっと己を(みが)けばいいものを。ミヒャエルは周囲からすぐに孤立した。

 それが気に食わなかったのか、先にいた神官たちはまだ慣れないミヒャエルをあざ(わら)い、(いわ)れのない難癖(なんくせ)をつけてはことあるごとに冷たくあたった。そんな彼らを哀れに思ってただ耐え忍ぶ。その日々はどうしようもなく(むな)しく感じられた。

 そんな生活に耐えられたのは、尊敬できる神官もいたからだ。当時の神官長はその筆頭とも言える人物で、敬虔(けいけん)な聖職者でありながら文武両道を備えた人格者だった。

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