宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
それでも疲弊する毎日に、ミヒャエルは時折この場所に来ては、自身を癒すように自然と戯れていた。王都では精霊たちをほとんど見かけない。この本神殿の中でさえ、滅多に姿を現すことはなかった。
だがこの場所で横笛を吹いていると、わずかにその気配が近づいた。風を感じ、空に溶けるように笛の音を響かせる。そうすると好奇心が強そうな小さな精霊が、少しずつ伺うように寄ってきた。
生まれ故郷の森のようにはいかなかったが、幾度も通ううちに近づく精霊の数も増えてくる。それがうれしくて、ミヒャエルは時間を見てはここで笛を吹くのが日課になった。
今日もこの場に立ち、精霊が好む静かな音色を吹き始めた。するとすぐに精霊が集まってきた。なかなか声を聞かせてはくれないが、随分とこちらに慣れてくれたようだ。
その精霊たちが突然一目散に逃げ散らばった。驚いたミヒャエルは、耳に心地よい旋律を思わず途切れさせてしまった。
塀を隔てた向こうに人の気配がする。息をひそめていると、若い女性の話し声が聞こえてきた。身を寄せた塀の穴から見えたのは、渡り廊下を歩く四人の貴族令嬢だった。
ここは神殿の外れだ。ほかの神官が近づかないのは、王城に近い場所にあるからなのだ。そのことに気づいたミヒャエルは、ここではもう笛は吹けないのかとひどく落胆した。
本神殿は王城の敷地内にある。だが貴族と顔を合わせるのは神事の折だけだ。神殿組織は王家とは完全に独立しているため、貴族だからと言って媚びへつらう必要はない。とはいえ新米神官である自分が彼らと対等と言えるはずもなかった。
令嬢たちが去っていくのを待つことにしたミヒャエルは、見つからぬようさらに息をひそめた。
「イジドーラ様、これはあなたのためを思って言うのだけれど、少し態度が大きすぎるのではなくて? 新参者なのだから、王太子妃様の前ではもっとわきまえた方が身のためですわよ」
「随分と遠回しにおっしゃるのね。頻繁にセレスティーヌ様に呼ばれるわたくしが気に食わないなら、はっきりとそう言えばよろしいのに」
「なっ、そんなことあるわけないじゃない! 人にはそれ相応の立場があると、わざわざ親切に教えてやってるのでしょう!?」
何やら不穏な空気だ。ひとりの令嬢が年下の令嬢に難癖をつけている。責められる令嬢の姿が自分と重なり、居たたまれない気持ちになった。だがミヒャエルと違って、その令嬢は黙って耐え忍ぶつもりはないらしい。すぐさま意地悪そうに鼻で嗤う仕草を取った。
だがこの場所で横笛を吹いていると、わずかにその気配が近づいた。風を感じ、空に溶けるように笛の音を響かせる。そうすると好奇心が強そうな小さな精霊が、少しずつ伺うように寄ってきた。
生まれ故郷の森のようにはいかなかったが、幾度も通ううちに近づく精霊の数も増えてくる。それがうれしくて、ミヒャエルは時間を見てはここで笛を吹くのが日課になった。
今日もこの場に立ち、精霊が好む静かな音色を吹き始めた。するとすぐに精霊が集まってきた。なかなか声を聞かせてはくれないが、随分とこちらに慣れてくれたようだ。
その精霊たちが突然一目散に逃げ散らばった。驚いたミヒャエルは、耳に心地よい旋律を思わず途切れさせてしまった。
塀を隔てた向こうに人の気配がする。息をひそめていると、若い女性の話し声が聞こえてきた。身を寄せた塀の穴から見えたのは、渡り廊下を歩く四人の貴族令嬢だった。
ここは神殿の外れだ。ほかの神官が近づかないのは、王城に近い場所にあるからなのだ。そのことに気づいたミヒャエルは、ここではもう笛は吹けないのかとひどく落胆した。
本神殿は王城の敷地内にある。だが貴族と顔を合わせるのは神事の折だけだ。神殿組織は王家とは完全に独立しているため、貴族だからと言って媚びへつらう必要はない。とはいえ新米神官である自分が彼らと対等と言えるはずもなかった。
令嬢たちが去っていくのを待つことにしたミヒャエルは、見つからぬようさらに息をひそめた。
「イジドーラ様、これはあなたのためを思って言うのだけれど、少し態度が大きすぎるのではなくて? 新参者なのだから、王太子妃様の前ではもっとわきまえた方が身のためですわよ」
「随分と遠回しにおっしゃるのね。頻繁にセレスティーヌ様に呼ばれるわたくしが気に食わないなら、はっきりとそう言えばよろしいのに」
「なっ、そんなことあるわけないじゃない! 人にはそれ相応の立場があると、わざわざ親切に教えてやってるのでしょう!?」
何やら不穏な空気だ。ひとりの令嬢が年下の令嬢に難癖をつけている。責められる令嬢の姿が自分と重なり、居たたまれない気持ちになった。だがミヒャエルと違って、その令嬢は黙って耐え忍ぶつもりはないらしい。すぐさま意地悪そうに鼻で嗤う仕草を取った。