宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「あなたこそ、ザイデル公爵家の人間であるわたくしに(たて)()こうなんて、身をわきまえない愚かな女ね」
「年下の分際でなんて生意気なの! ねぇ、ジルケ様もそうお思いになりますわよね?」

 言い争うふたりの令嬢に、ミヒャエルは心中(おだ)やかでいられなかった。昔から(いさか)いが苦手だ。早く去ってくれと願っていると、脇に立っていた令嬢が(たしな)めるように間に入った。

「わたくしは王太子妃殿下の意向に沿うだけですわ。カチヤ様もイジドーラ様も少し落ち着きになって」
「あら、心外ね。カチヤ様がひとりで興奮なさっているだけのこと。わたくしは初めから冷静ですわ」

 幼いわりにきつめの化粧をした令嬢がそう言い放つと、やり込められた令嬢が悔しそうに唇をわななかせた。「覚えてらっしゃい!」と言い捨て、スカートを(ひるがえ)し逃げるように去っていく。

「手ごたえのないこと」
「イジドーラ様……あのように返すのはあまり感心いたしませんわ」
「まあ、ジルケ様。売られた喧嘩を買わなくてどうしろとおっしゃるの? ああいった者は初めにつぶしておかないと後々(のちのち)厄介(やっかい)になるというものよ」
「……くだらぬな」

 遠巻きに見ていた最後の令嬢が、興味なさげにつぶやいた。

「ジルケ様もいちいち付き合ってやるとは人がいい」
「マルグリット様……またお言葉が乱れていらっしゃいますわよ」
「すまぬ。ここは青龍の力が強いゆえ、つい守護者の意識に引きずられてしまってな。何、王太子妃殿下の前ではきちんと令嬢らしく振る舞おう」

 そんな会話が(きぬ)()れの音と共に次第に遠ざかっていく。ほっと息をついたミヒャエルは、うら若き女性の恐ろしさに思わず身震いした。どうにも貴族とは相いれそうもない。

「ここにはもう来ない方がよさそうだな……」

 女性とも、貴族とも、どのみち住む世界が違うのだ。そう言い聞かせてその日の出来事は、すぐに忘れ去られていった。


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