宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 それからというもの、ミヒャエルは笛を吹くという名目で、足繫(あししげ)くこの場に何度も通った。晴れた日の早朝は、高確率で彼女の姿を見ることができて、つらかった日々は途端に輝きを取り戻した。

 会えない日は笛を吹き、ひたすら彼女を思う。時間を重ねるほどにいろんな面が見えてくる。本来の彼女は心やさしいひとなのだとの推測は、すぐ確信に変わっていった。

 夢中になって本を読む彼女の周りでは、精霊たちもたのしげにくるくると舞うようになった。(けが)れた者に精霊は絶対に近づかない。そのことがさらにミヒャエルの思いに拍車をかける。

(イジドーラ・ザイデル……)

 それが彼女の名だ。辛辣(しんらつ)で気の強い令嬢だと、神官の間でも有名な公爵令嬢だった。彼女の心がどれだけ清らかなのか、それを知っているのはミヒャエルだけだ。

 イジドーラを擁護(ようご)したい気持ちも湧いたが、()も言われぬ優越感が己を満たす。だが決して届くことのない思いだと言うことも、ミヒャエルは十分に理解していた。

 彼女は貴族だ。それも王家に次ぐ地位を持つ、公爵家の人間だった。そんなイジドーラに自分の存在を知らしめることすらできはしない。自分たちは違う世界に生きているのだと、ミヒャエルはそうきちんと割り切っていた。


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