宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 その日からミヒャエルは人が変わった。のし上がるためなら、他人を(おとし)めることも(いと)わない。時に()めそやし、弱みを握り、金品を握らせ、周囲の人間を囲っていった。

 もともと神官としての素質を持っていたミヒャエルは、(またた)く間に神殿内を掌握(しょうあく)した。最終的には神官長派とミヒャエル派に、派閥(はばつ)二分(にぶん)することとなる。

 神官長はどこまでもミヒャエルの壁となった。あの男がいる限り、イジドーラを救えない。(きた)るべき日のために、ミヒャエルは人を使って気づかれぬよう神官長に少しずつ毒を盛った。

 そして彼女の処刑執行の日程が決まったらしいという噂に、ミヒャエルはその覚悟を決めた。

 イジドーラが王城の一室に幽閉されていることは突き止めていた。決行の前夜に、その場所近くの茂みに立つ。この高い石塀(いしべい)の向こうにイジドーラがいる。どれだけ心細い日々を送っているのだろうか。彼女の涙を思うだけで、ミヒャエルの胸は(きし)むほどの痛みを訴えた。

(せめてひと時の安らぎを届けたい)

 久しぶりに吹く横笛に、精霊たちが集まることはなかった。(けが)れた我が身に寄ってくるのは、もはや異形の暗い影ばかりだ。だが後悔はひと欠片(かけら)たりとてない。

(もうすぐ……もうすぐだ。わたしが必ず貴女(あなた)を救ってみせる)

 旋律を響かせ、細くかかる三日月(みかづき)を遠くに見上げた。この笛の()を聞きながら、彼女も同じ月を見ているのだと。

 ただ、それだけを信じて――

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