宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
疾風が生まれ、男の手首が横から乱暴に掴まれた。間に割って入ったカイは、短剣が手落とされると同時に、蹴ってそれを廊下の向こうへ遠ざける。
「イジドーラ様、お怪我は!?」
「問題ないわ」
挨拶のように平然と返された言葉に、カイは安堵の表情を見せた。そのまま掴んだ腕をねじり上げ、男の背中にのしかかるようにして膝をつかせる。
「離せ! 離さぬか!」
「お前……ミヒャエル司祭枢機卿か?」
変わり果てた姿に息をのむ。目の前に立つイジドーラに近づこうと、ミヒャエルは身をよじらせた。思いのほか強い抵抗に、カイはさらに重く膝を食い込ませる。
その拍子にミヒャエルの懐から一本の横笛が転がり落ちた。それは半円の歪な軌道を描き、イジドーラが立つ床の手前で動きを止めた。
女性騎士ふたりがミヒャエルの横に立ち、両横からクロスするように細剣を喉元に突き付ける。冷たい刃に慄いて、ミヒャエルは顎を上げ上体を必死に反らした。
「王妃殿下の命を狙うなど、死を覚悟してのことか?」
カイが低い声で問う。この場でイジドーラを殺したところで、ミヒャエル自身もただで済むはずもない。
「王妃のせいでわたしはこの手を血に染めた。その報いを受けさせたとして、それをお前は悪と言うのか」
イジドーラの存在こそが、この身を奈落の底へと落とさせた。精霊たちに愛され清廉潔白だったあの頃に、もう戻ることなどできはしない。
「道連れにするも我が道理だ」
呻くように言って、ミヒャエルはイジドーラを睨み上げた。その視線をイジドーラは表情なく受け止める。怯えるでもなく、蔑むでもない。ましてや憐れみの欠片さえも、その瞳には見いだせなかった。
「イジドーラ様、お怪我は!?」
「問題ないわ」
挨拶のように平然と返された言葉に、カイは安堵の表情を見せた。そのまま掴んだ腕をねじり上げ、男の背中にのしかかるようにして膝をつかせる。
「離せ! 離さぬか!」
「お前……ミヒャエル司祭枢機卿か?」
変わり果てた姿に息をのむ。目の前に立つイジドーラに近づこうと、ミヒャエルは身をよじらせた。思いのほか強い抵抗に、カイはさらに重く膝を食い込ませる。
その拍子にミヒャエルの懐から一本の横笛が転がり落ちた。それは半円の歪な軌道を描き、イジドーラが立つ床の手前で動きを止めた。
女性騎士ふたりがミヒャエルの横に立ち、両横からクロスするように細剣を喉元に突き付ける。冷たい刃に慄いて、ミヒャエルは顎を上げ上体を必死に反らした。
「王妃殿下の命を狙うなど、死を覚悟してのことか?」
カイが低い声で問う。この場でイジドーラを殺したところで、ミヒャエル自身もただで済むはずもない。
「王妃のせいでわたしはこの手を血に染めた。その報いを受けさせたとして、それをお前は悪と言うのか」
イジドーラの存在こそが、この身を奈落の底へと落とさせた。精霊たちに愛され清廉潔白だったあの頃に、もう戻ることなどできはしない。
「道連れにするも我が道理だ」
呻くように言って、ミヒャエルはイジドーラを睨み上げた。その視線をイジドーラは表情なく受け止める。怯えるでもなく、蔑むでもない。ましてや憐れみの欠片さえも、その瞳には見いだせなかった。