宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 王妃の生誕を祝う夜会には、多くの貴族が集まっていた。リーゼロッテはジークヴァルトとともに遅めに会場入りした。異形を騒がせて迷惑をかけないようにと、挨拶が済んだら長居はしない予定だ。

 だが主役である王妃はまだ姿を現していないようだ。ダンスフロアも開放されていない。今夜ジークヴァルトと踊れることを楽しみにしていたリーゼロッテは、そわそわしながら王妃の登場を待った。

「あ、エラ……」

 エデラー男爵といたエラが目に入る。ジークヴァルトは何も言わずに、そちらへとリーゼロッテをエスコートしていった。こんな気遣いがとてもうれしくて仕方がない。言葉は少ないが、ジークヴァルトはいつでもちゃんと自分を見てくれている。

「これは公爵様。先日はお引き立ていただきありがとうございました」
「ああ」
「リーゼロッテ様にも満足していただけたようで、わたしもうれしく思っております」
「わたくしこそ素敵なものをたくさんそろえていただいて、エデラー男爵様には感謝しかありませんわ」
「そう言っていただけるとやりがいがありますね。ご入用(いりよう)の際にはまたぜひに」

 エデラー男爵はやはり商人気質なのだろう。そのままジークヴァルトへの売り込みが始まってしまった。殿方同士の会話は実につまらない。貴族の社交としては必要なことなので、横でおとなしく待つしかなかった。

 同じように思っていそうなエラと目を合わせた。今日のエラは男爵令嬢としてとても美しい装いだ。いつもそうしていればいいのにと言っても、侍女の自分には過分だと、普段エラは質素な格好をしている。

「リーゼロッテ様、今日もお美しいです」
「ありがとう、エラもとても綺麗よ」

 周囲の若い貴族の男たちが、エラにちらちらと視線を送っている。ダンスに誘いたいのかもしれない。早く王妃が来ないかとリーゼロッテは王族の登場する扉を見やった。

「お支度に時間がかかっていらっしゃるのかしら……?」
「よくあることでございますから、気長に待ちましょう」
「ええ、そうね」

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