宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 会場を見回すと、白系の清楚なドレスを着る令嬢が幾人も目に入った。

「本当、エラが言っていたように白いドレスの方が多いみたいね」
「若いご令嬢の間ではシンプルなドレスが流行っているようですね。あと、あちらのようなハンドチェーンが」

 エラの視線の先に、指なしの手袋のような飾りをつけた夫人がいた。手の甲を覆うチェーンにはいくつも輝石が飾られ、動くたびにシャンデリアの光を美しく反射する。

「まあ、素敵な装飾ね!」
「あちらはクリスティーナ王女殿下がよくつけていらっしゃるそうで、今年の春くらいから流行り出したようです」

 クリスティーナはこの国の第一王女だ。体が弱くて、滅多に姿を現さないことで知られている。

「わたくし、クリスティーナ王女殿下のお姿は一度もお見かけしたことがないわ」
「今年はたびたび公務に参加されていたそうですよ。お会いした方たちの噂話をよく耳にします」
「そうなのね。王太子殿下のお姉様だし、きっとお美しい方なのでしょうね」

 そんな会話をしているうちに、王妃登場の知らせが届いた。再びジークヴァルトと並び立つ。今日のリーゼロッテの装いは、十六歳という年齢にふさわしい可憐で可愛らしいドレスだ。

 昨日アンネマリーに用意されたシックなドレスは、自分にはまだまだ似合そうにない。昨日のジークヴァルトの反応を見てもそれは明らかだ。はっきりと口には出されたわけではないが、そこはそれジークヴァルトのやさしさだろう。
 だが馬子(まご)にも衣裳(いしょう)にすらならなかったのかと思うと、リーゼロッテはなんだか悲しくなってしまった。

(それでも胸は大分育ってきたもの)

 最近では胸を盛る詰め物の量も減らしてもらっている。過剰に盛りすぎるのは諸刃(もろは)(つるぎ)だ。初夜を迎えいざ出陣となった時に、「あれ? なんか思ってたのと違う」などとジークヴァルトに言われでもしたら、一体どうすればいいというのだ。

 結局リーゼロッテがいきついた答えは、バストアップに励みつつも、ジークヴァルトには小胸(こむね)に日々見慣(みな)れてもらおうというものだった。

(盛りすぎは厳禁ね。見栄(みえ)を張っても(むな)しいだけだし……)

 隣にいるジークヴァルトの顔を見上げ、バストアップだけはサボらないようにしようとリーゼロッテはひとり頷いた。

< 66 / 391 >

この作品をシェア

pagetop