宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 王と王妃のファーストダンスを、リーゼロッテは瞳を輝かせながら目で追っている。今日の彼女はとても可愛らしいドレス姿だ。
 いや、いつでも可愛いと思ってはいるが、夕べの装いはジークヴァルトにとって目に毒だった。

 あらわになった華奢(きゃしゃ)な肩。細い首にかかるおくれ毛。広くあけられた(えり)ぐりからのぞくのは、ささやかな胸の谷間だ。あの奥には自分の半身の(あかし)である龍のあざがある。ジークヴァルトの持つあざと鏡映しにした形のものだ。

 くすぐるように触れると、彼女は恥ずかしそうにこちらを見てくれる。普段は隠れて見えないあの白い背に、この指を這わせたらリーゼロッテはどんな表情をするのだろうか。

 そんな想像が頭からずっと離れなくて、ジークヴァルトはリーゼロッテから視線をそらした。
 心づもりをした上でなら、近づいても理性を保つことはできる。だがふいに向けられる無防備な笑顔は、なけなしのそれを一瞬で消し去ってしまう。

 (よこしま)な思いを払うための自傷行為は、マテアスに止められてしまった。かといってリーゼロッテをひとり置きざりにして、王城を全力疾走するなどできるはずもない。
 そうなればリーゼロッテを極力見ないようにするしかなかった。彼女に見惚れる不埒(ふらち)(やから)を余すことなく睨みつけられるので、結果オーライとしているジークヴァルトだ。

 とにかく王城で公爵家の呪いを発動させないようにしなくては。リーゼロッテは夜会に出ることをとても楽しみにしている。自分が異形を騒がせては、出禁を食らって悲しい思いをさせてしまうだろう。

 ファーストダンスが終わり、ダンスフロアが開放された。それを見てリーゼロッテが紅潮させた顔を向けてくる。

「ジークヴァルト様」
「ああ、行こう」

 小さな手を取り、フロアへと向かう。興味のなかった舞踏会も、呼ばれるのが苦ではなくなった。無駄な時間としか思えなかったダンスの練習も、きちんとやっておいてよかったと思う。

 軽快なワルツが流れ、細い腰に手を添える。リーゼロッテは自分のものだと、多くの者に知らしめたい。
 周囲に気を払いながら、邪魔な異形を(はら)っていく。楽しそうに踊るリーゼロッテを見つめ、ジークヴァルトの口元も自然とほころんだ。

(今だけは――)

 リーゼロッテが自分ひとりのものになった気がして、ジークヴァルトは手を離さないまま、思わず三曲続けて踊ってしまった。

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