宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「ご無沙汰しておりますわ、フーゲンベルク公爵様。ほんの少しの間だけ、わたくしにリーゼロッテ様をお貸しくださいませんか?」
「やめんか、ヤスミン」
「あらお父様、いいではありませんか。ここでおしゃべりするだけですわ。今のうちにおふたりはご挨拶を済ませてきてくださいませ」

 キュプカーとジークヴァルトを無理やり追い出すと、ヤスミンはリーゼロッテの横に腰かけた。

「お邪魔してごめんなさいね。お父様の挨拶回りに付き合うのに疲れてしまって」
「ふふ、そのお気持ちよく分かりますわ」

 リーゼロッテがほほ笑むと、ヤスミンは(はしばみ)色の瞳をきらりと光らせた。

「リーゼロッテ様は公爵様とのご婚約は長いのでしょう? そろそろ婚姻のお話も出ているのではないかしら?」
「いえ、それはまだ……。ジークヴァルト様との婚姻の時期は、改めて龍から託宣が降りると聞いておりますので」
「あら、そうでしたの。(つい)の託宣を受けた方にしては遅いですわね」

 残念そうにしながらも、ヤスミンはいたずらな視線を向けてくる。

「では、公爵様はまだまだ我慢を強いられるというわけね」
「え? ジークヴァルト様は何か我慢をなさっているのですか?」

 驚いたように聞き返すと、ヤスミンは目を見開いた後、すぐにくすくすと笑いだした。

「それでこそリーゼロッテ様ですわ。どうかずっとそのままでいてくださいませね?」

 いつだか誰かに同じようなことを言われた気がする。リーゼロッテは困惑しながらも曖昧に頷いた。

「ヤスミン様はご婚約者はいらっしゃるのですか?」

 言われっぱなしなのもなんだかおもしろくない。同年代の友人とガールズトークをすべく、リーゼロッテは前のめりに尋ねた。

「正式には決まっていないのですけれど、このままいけば従弟(いとこ)を婿養子に迎えることになりそうですわ」
「婿養子ですか?」
「ええ。兄弟はおりませんので、必然的にわたくしの伴侶となる方が次期キュプカー侯爵ということに」

 そう言いながらヤスミンは、小さなグラスに入れられた果実酒をくいと飲み干した。

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