宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「エデラー男爵様、本日はご足労いただきまして誠にありがとうございました」
「いや、こちらも一度、公爵様にご挨拶をと思っていた。優秀な方とは伺ってはいたが、リーゼロッテ様と睦まじくされている姿はなんとも微笑ましいな」

 何しろジークヴァルトは人嫌いで有名だ。眼光鋭く他人を寄せ付けない(かたく)なな態度に、恐れをなしている貴族は数多い。

「ああ、マテアス。娘のこともそれなりに気をかけてもらえると助かる。君には迷惑をかけるが、娘は今後恐らくリーゼロッテ様のおそばを離れることはないだろうしな」
「もちろんでございます。エラ様はリーゼロッテ様同様、ダーミッシュ伯爵様からお預かりした大事な客人でございますから」
「だが娘のせいで公爵家を(わずら)わせているんだろう? 主に使用人たちに対してのようだが」

 エデラー男爵が言っているのは、フーゲンベルク家で大流行の「エラチャレンジ」のことだ。そう思いあたったマテアスは、その情報収集能力はなかなかだなどと胸中でつぶやいた。

「こちらこそ使用人の統制が取れず、エラ様には多大なご迷惑をおかけしてしまいました。ですが既に対策は取りましたので、今後似たような騒ぎが起こることはないとお約束いたします」

 使用人たちによるエラへの求婚は、はじめのうちは目をつぶっていた。フーゲンベルク家の使用人は昔から流行りを作っては、日々のストレスを解消している。大概のことは頭ごなしに禁止することもないと考えているマテアスだ。

 だがエーミールの件もあり、エスカレートしていく様子にさすがにこれはまずいと思い始めたマテアスは、月に一度の使用人集会でエラへの求婚を一切禁じた。

 彼女はいずれ貴族籍を抜けると言っているから、それは横暴だ。平民の自分たちにもきちんと権利はあるはずだ。そんな意見も出たが、現在エラは現役バリバリの男爵令嬢である。
 どうしても求婚したいのであれば貴族の慣習にのっとって、エラの父親であるエデラー男爵に申し出て許可を得るように。そう冷たく言うと、途端に跳ね上がったハードルに、使用人たちはみなおとなしく引き下がったというのが今回の顛末(てんまつ)だ。

 それが功を奏してエラチャレンジは無事終息をみせた。もし本当に男爵に申し出る者がいたとして、そこから先はエデラー家の問題だろう。

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