宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 切なくて、リーゼロッテは瞳を潤ませた。キスしてほしい。そんなふうに思うが、恥ずかしくて自分からは言い出せない。
 その時に気がついた。いつもなら、(すき)あらば(ひざ)の上に乗せようとしてくるジークヴァルトが、適切な距離を保ったままでいる。それどころか髪にすら触れてきていなかった。

(そうか……ここは王女殿下の東宮だから……)

 だがこの部屋には自分たちしかいない。公爵家ではいつでも使用人がのぞき見するように控えているが、今この場は本当にふたりきりだ。

(今だったらもっと触ってくれてもいいのに)

 恥ずかしいから嫌だと言っても、いつもはぐいぐい来るくせに。そんなふうに思って、リーゼロッテはちょっと不満げに唇を尖らせた。

「どうした?」
「あ、いえ、何も」

 触れてくれないから()ねているのだとは言えず、リーゼロッテは慌てて首を振った。

(でもキス、したいな……)

 自分から突然口づけたら、ジークヴァルトは驚くだろうか。女性は(つつ)ましやかでいることを求められる貴族社会だ。そんなことをしては、はしたないと(とが)められてしまうかもしれない。

 思えばキス以上のことは、されたことがないなとふと思う。唐突にされるのもあって、リーゼロッテはいつもそれだけで目を回してしまう。しかしジークヴァルトが(あふ)れ出る力を導いてくれるおかげで、最近では気を失うようなこともなくなった。

(でも、呆れられていたらどうしよう……)

 いちいち面倒くさいと思われても仕方がなかった。ジークヴァルトに嫌われたら、どうしていいかわからない。

「ジークヴァルト様……わたくし、ちゃんと力を扱えるよう頑張りますわ」
「お前はそのままでいいと言っただろう」
「ですが……」

< 87 / 391 >

この作品をシェア

pagetop