宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 開け放したままのテラスから外を眺めた。遠くに見える王都の街を見るたびに、余計にさびしくなってくる。だがその向こうにジークヴァルトがいるのかと思うと、思いを()せずにいられなかった。

 コッコッコ、と鶏の声がして、視線を庭へと向ける。そこにはのんびりと石畳を歩くクリスティーナがいた。少し距離を開けて、その後ろをアルベルトがついていく。
 王女が手にした何かを()くと、鶏が一斉に地面を(ついば)み始める。見上げた王女と目が合った。次いでリーゼロッテに向けて手招きをしてくる。

(のぞき見していたこと、何か言われるのかしら……)

 戸惑いつつも部屋を出て、リーゼロッテは王女がいる庭へと急いで向かった。王女の呼び出しなら、怒られると分かっていても行くしかない。

「王女殿下、お呼びでしょうか」
「堅苦しいわね。クリスティーナでいいわ」

 そう言いながら小さな穀物を庭に撒く。王女の機嫌は悪くなさそうだ。

(クリスティーナ様は随分と気さくな方ね)

 ハインリヒ王子も思ったよりフレンドリーだったが、あの張り詰めた雰囲気に近寄りがたいものを感じてしまう。

「リーゼロッテ、あなたアルベルトが行くと、確認もせずに扉を開けるそうね?」
「あ、はい、アルベルト様はいつも決まった時間に来てくださいますから」
「公爵が心配するのもよく分かるわ」

 たのしそうに笑われて、リーゼロッテは困惑顔で曖昧な笑みを返した。この東宮には限られた人間しかいない。それも入ることを許された厳選された者たちだ。

「あなたのここでの生活を、根掘り葉掘り聞いていったそうよ? ねぇ、アルベルト」
「否定はいたしません」

 事務的に返したアルベルトを思わず見やる。視線が合うと、目だけで笑みを返された。

「も、申し訳ございません……ジークヴァルト様は少し心配性なところがあって」
「いいのよ。大事にされている。そういうことでしょう?」
「はい……」

 ここ最近、ジークヴァルトのせいで、穴があったら入りたい事態に陥ってばかりだ。

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