宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「ほら、マンボウ。遠慮しないであなたもお食べなさい」
「マンボウ?」

 突然出てきた海の生物に、リーゼロッテはこてんと首を傾けた。王女の視線の先にいたのは、毎朝耳に痛い雄叫(おたけ)びを上げる、あの大きな鶏だった。近くで見るとものすごく(たくま)しい。ほかの鶏に比べると、ひと回りもふた回りも大きく見えた。 

「オッオッオッ、オエーッ!」

 王女が(えさ)をばら撒くと、うれしそうに地面を啄み始める。

「この鶏の名はマンボウというのですか?」
「ええ、そうよ。可愛らしいでしょう?」

 この国の言葉基準では可愛いのだろうか? いまいち判断がつかなかったが、リーゼロッテは素直に頷いた。マンボウはゆったりと海を(ただよ)うイメージだ。可愛いと言えば可愛い気がしてきた。

 しかし見た目はめちゃくちゃ強そうだ。模様なのだろうが、目の上にキリリとしたと太眉(ふとまゆ)が描かれていて、それがまた精悍(せいかん)さに拍車をかけている。

(マンボウというよりケンシ〇ウね……)

 そんな脳内突っ込みに、ひとり口を(ほころ)ばせた。

「公爵はマンボウにあっさり通されたようね」
「はい、公爵様の一瞥(いちべつ)で、マンボウは震え上がっていましたから。勝負にもならなかったようです」
「あらそう、つまらないわ」

 王女とアルベルトの会話に目を見開く。

「もしかして……東宮の恐ろしい門番とは、このマンボウのことなのですか?」
「ええ、そうよ。せっかく血みどろの戦いが見られると思ったのに」
「クリスティーナ様……」

 非難めいた声に王女は涼やかな笑い声をあげた。

「冗談に決まっているでしょう? ね、マンボウ」

 王女の呼びかけにマンボウは「オエっ」と鳴き返す。

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