宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「マンボウはそんなに凶暴なのですか?」
「男相手にはね。あなたに危害を加えることはないわ」
「わたしも初対面からひと月、コレとは死闘を繰り返しました」

 アルベルトがしみじみと頷いた。真面目そうな彼が冗談を言うとは思えない。きっと嘘ではないのだろう。

「マンボウはおじい様に頂いた鶏なのよ」

 クリスティーナが懐かしそうに目を細めた。王女の祖父と言えば前王のフリードリヒだ。(たみ)思いの王だったと、リーゼロッテは教えられていた。

「ねえ、リーゼロッテ。あなたはシネヴァの森についてどれだけ知っていて?」
「シネヴァの森……」

 クリスティーナはいつも話が唐突だ。少し考えてからリーゼロッテは口を開いた。

「以前、ハインリヒ王子殿下にお伺いしたことがございます。森には巫女様がいらっしゃると。ですが子供のころには、森には魔女が住むと聞かされておりました」
「魔女……そうね、ほんとその通りだわ」
「ですが、巫女様は殿下のご血縁の方だと……」

 困ったように返すと王女はくすりと笑う。

「森の巫女はね、わたくしの大おばあ様よ。高祖(こうそ)伯母(はくぼ)なの」
「高祖伯母……」

 祖母(そぼ)曾祖母(そうそぼ)高祖母(こうそぼ)、と数えていって、リーゼロッテはそれがどんな関係かを考えてみた。しかしさっぱり分からない。

「高祖母の姉よ。祖父の祖母の姉ね」

(ひいおばあさまのお姉様ということかしら……? ん? ひいひいおばあさまのお姉様?)

 考えるほどに何が何だか分からなくなる。とにかくものすごく高齢なことだけは理解した。

「婚姻の託宣を受けた者は、必ずシネヴァの森に向かうことになる。あなたたちもいずれ行くことになるでしょうから、今からたのしみにしておくといいわ。どうして大おばあ様が『魔女』と呼ばれるのか、それが分かると思うから」

 しわくちゃで鼻曲がりの老婆をイメージしながら、リーゼロッテは神妙に頷いた。

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