宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
      ◇
 雨上がりの空気はことさら寒い。こんな日に庭に出ると足元が汚れてしまうため、リーゼロッテはおとなしく部屋の中に引きこもっていた。

「それに今日は神官様がやってくるって、アルベルト様が言ってたものね」

 そういう時はあまりうろつくなとくぎを刺されている。お世話になっている以上、従う方がいいだろう。

 自分で()れた紅茶を飲みながら、もくもくと焼き菓子を頬張った。三食に加えて、午前、午後とおいしい菓子が毎日欠かさず配給される。食べつつも、太ってしまわないか心配になってきた。

「その分、運動すればいいかしら?」

 東宮は五階建てだ。階段の昇り降りだけでも重労働だった。王女の呼び出しにへばらないためにも、普段から足腰を(きた)えておくのが得策だろう。ここは健脚(けんきゃく)を目指すしかない。

「それにしてもおいしくないわね」

 紅茶を含んで口をすぼめる。自分が淹れると渋さばかりが際立(きわだ)って、まずいとしか言いようがない。淑女教育の一環で紅茶の淹れ方はきちんと習っている。それなのにどうやってもおいしくならないのはなぜなのか。

「今度エラにコツを聞いてみなくちゃ」

 先ほどから独り言ばかりつぶやいている自分に気づく。

「話し相手がいないって、こんなにつらいのね……」

 ため息をつきながら口直しの菓子に手を伸ばす。こんな生活ではやはり確実に太りそうだ。そう思って手を引っ込めた。

「食べきると、次の日ちょこっと量が増えているのよね」

 日本人のもったいない精神で、なかなか残すことができないリーゼロッテだ。しかし残さず食べると料理人が足りなかったのだと判断するのか、少しずつ菓子の数や種類が増えていく。
 それが分かると無理には食べずに、あきらめて残すことにした。自分で節制しないと、そのうちとんでもないことになる。

「厨房の人にも一度会えるといいけれど……」

 おいしい料理のお礼も言いたい。とにかく人恋しくて仕方がなかった。

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