宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 ため息交じりに知恵の輪をかちゃかちゃいじる。夜会の合間に暇な時間ができたらと、なんとなくポケットに忍ばせておいたものだ。暇つぶしになるものがこれしかなくて、リーゼロッテは心を無にして知恵の輪を動かした。

 しかし動かせどまったく外れる様子はない。マテアスもエラも、あんなにすんなり外していたのに、どれだけやっても絡まったままだ。

「いいのよ。この知恵の輪もこんなに長い時間いじってもらえて、暇つぶし冥利(みょうり)()きるというものだわ」

 自分を納得させるように大きく頷く。その時、つんざくような鶏の鳴き声が庭に響いた。

「マンボウ?」

 マンボウが雄叫びを上げるのは、基本早朝だけだ。日が昇ってしばらくしたこんな時間に、鳴きだすのはめずらしいことだった。

「オエーッオッオッオッ! オエーーーーッ!!」

 朝と比べものにならないくらいのけたたましい鳴き声だ。驚いてテラスから外を見下ろした。姿は見えないが、雄叫びは庭を右に左に不規則に移動していく。植木が不自然に揺れるので、恐らくその辺りを駆けまわっているのだろう。

「うわっ! いたっ! も、やめ、やめてっ」
「オエーーーーッ!!  オッオッオッ!」
「ぎゃっ!」

 マンボウの叫びの中に、誰かの悲鳴が混じる。茂みの合間でマンボウの羽がばたついた。それに追われるように、白い長衣を着た少年が、頭を(かば)いながら庭の中を走りまわっている。

「オッオェーーーーッ!!」
「ぎゃーーーーっ!」

 鶏ってこんなに高く飛ぶんだ、というほどの華麗な飛翔を見せ、マンボウは少年の頭上に躍り出た。大きく羽ばたきながら滞空時間を稼ぎつつ、(あし)の爪で、(くちばし)で、鬼のような攻撃を繰り出していく。

「いたっいたいっいたいっ」
「駄目よ! マンボウ、やめなさい!」

 リーゼロッテは慌てて大声で叫んだ。テラスの手すりから身を乗り出して、マンボウに届くように声を張り上げる。

「その方は神官様よ、つついては駄目!」

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