宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 少年が身に(まと)う長衣は神官服だ。雨に濡れた庭を走り回って、泥だらけになっている。リーゼロッテと目が合うと、少年は一目散に駆け寄ってきた。
 建物近くの大木に、少年は飛びつくようにしがみつく。マンボウに追い立てられて、少年はするすると木の上まで昇っていった。

 先ほどより近くで少年と目が合った。二階にいるリーゼロッテより少しだけ低い位置で、だがこちらに飛び移ることはできない。そんな微妙に遠い距離だ。

 マンボウは跳躍(ちょうやく)しながら何度も何度も、木につかまる少年に猛攻を仕掛けに行く。届きそうで届かない。鋭い嘴に、少年は震えながら太めの枝に移動した。

「駄目ったら! マンボウ、いいからやめなさい!」

 リーゼロッテが庭下に向かって叫ぶ。覗きこんだ拍子に、ゆるく編まれた三つ編みがぷらりと揺れた。

「オエーーーーッ!!」

 渾身(こんしん)の叫びとともに、マンボウがいきなりリーゼロッテに向かって羽ばたいてくる。驚いて半歩下がるも、マンボウは手すりに停まっておとなしく翼をしまった。ご機嫌そうに「オェ」っとひと声鳴いてくる。

「あ……マンボウは門番だったわね」

 それも男には容赦しない恐ろしい門番だ。先ほどのバーサーカーのような姿を目にして、王女の言っていたことにリーゼロッテはようやく納得できた。

「あの……助けてくださってありがとうございます」
 木の枝からか細い声が聞こえる。

「オェーッ!」

 鋭い羽音と共に、強めの風が生まれた。手すりにつかまったまま翼を広げて、少年に向けて再び威嚇(いかく)する。

「マンボウ、めっ!」

 慌てて止めるとマンボウは、太眉をきりっとさせたまま「オエッ?」と(くび)を傾けた。その愛嬌のある姿に胸をなでおろす。

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