Same cross
疲労と共に長時間電車に揺られて返ってきた地元の空は普段より少し曇り空でよく目を凝らさないと星ひとつ見えなかった。
 俺は家に帰るために砂浜を眺めながら停留所に座り、三十分に一本しか来ないバスを待った。
 潮風は火傷しそうなぐらい冷たくて、月の光を反射しながらゆらゆら揺れている海は不気味なぐらい幻想的だった。
 あらかじめカバンに入れておいた手袋に手を通しながら俺は、いつも見慣れてる砂浜に見知らぬ影があることに気づいた。
 そしてそれが人影だと気づくまでそう時間はかからなかった。
 俺は最初こそ、誰かが海辺で散歩してるんだろうなぐらいに思っていたが、その人影の背中をよく見てみると杉本が所属してるチームのユニ フォームだということに気づいた。
 (げっ、しかもあいつ杉本だ。)
 背中のナンバーをよく見ると、嫌というほど見てきた杉本のナンバーだった。
 俺はあいつに気づかれたくないという気持ちから砂浜に背を向けて座ったが、しばらく時間が経つと後ろの方から誰かが泣いている様な音が聞こえてきた。まさか杉本が泣いてるんじゃないだろうなと恐る恐る後ろを向くと、泣き声の主はあいつだった。
 俺は困惑した。
 いつもふざけてて、俺を馬鹿にしてくるあいつが泣いてるところなんて見たことなかった。
 正直ほっといてもいいと思ったけど、美月さんと会えた今日の俺は機嫌が良いんだ。
 俺は荷物を持ち上げて立ち上がった。

「おい、お前こんなとこでメソメソ泣いて何してんだよ。」
 杉本が勢いよく後ろを振り返った、
「橋本?!お前こそ何してんだよ。あと泣いてねえよ!」
 俺は明らかに泣いていたのに否定してるこいつにイラッときた。
「いや泣き声明らかに聞こえてたし、泣いてただろ。」
「お前に関係ないだろ。その買い物袋、もしかしてまた女みたいな服買ったのかよ。気持ちわりい。」
 この杉本の発言に俺の堪忍袋の尾が切れた。
「お前は俺が着る服がそんなに気になるかよ!なんでいつも突っかかってくんだよ!」
 夜の海に俺の怒鳴り声がよく響いた。
 目を見開いて唖然としている杉本の姿が視界いっぱいに入って、次に杉本は何か喋りたそうにして黙り込んでいた。
 俺は続けた。
「何か言いたいなら言えよ!」
 俺は杉本の答えを待った。
「・・・ましかったんだよ」
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