Same cross
「え?」
 返ってきた答えが聞き取れず俺は聞き返した。
「うらやましかったんだよ!」
 次に杉本の怒号が夜の静寂を遮った。
「自分の好きなもの貫けるお前が羨ましかったんだよ、ずっと!」
 あまりにも予想外の答えが返ってきた俺は呆気に取られていた。
 杉本は涙を浮かべながら続けた。
「俺、大学でもスポーツ続けろって親に言われてるけど、本当は微塵もやりたくないんだよ。本当はずっと演技がしたかった。でも俺の母親がなんて言ったかわかるか?俺の母さん、演劇なんてやって何になるんだって言ったんだよ。そんなこと考えるだけ無駄だって。」
 息を荒げて杉本は言った。
 俺はまさかこいつがこんなことを思ってるなんて一度も考えたことなかったから、返答に困っていた。
「お前は良いよな、好きなもの貫いてさ。きっとお前の両親もお前の服装に対して何も言わないんだろ?俺はそんなお前が心底羨ましいんだよ。」
 今まで大人しく杉本の話を聞いていた俺だったが、この杉本の何でも知っているような発言には納得行かなかった。
「杉本が俺の何を知ってるんだよ。勝手に決めつけんなよ!まず俺の親は俺の格好に対して一番嫌悪感示してるんだよ。自分の決めつけで勝手に推測するなよ!」
 俺の目にまた、唖然として俺を見つめている杉本が目に入った。
「そ、そうなのか?俺はてっきりお前の親はお前のやりたいことサポートして、お前は自分のやりたいことただ自由にやってるやつだと思ってた。」
「じゃあ、周りがお前の選択肢を良く思ってないときに、お前はなんでそんな自分を貫けるんだよ」
 さっきまでの威勢が嘘のように杉本は弱々しく俺に聞いてきた。
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