継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします
 ここに綴られている文字は、お父様の字と似ても似つかないもの。捺された封蝋だって、お父様の印章じゃない。

 どうして、我が家の誰もがこれを本物と思い込んでいたのか。

「この封蝋は、我がレドモンド家の印章ではありません」
「──!?」
「亡きレドモンド卿が、異なる印章を捺すとは思えない。ケリーアデル、お前は大きな過ちを犯したな」

 ヴィンセント様の声には、確かな圧があった。それにたじろいだケリーアデルは唇を噛む。

「封を開けようとしたとき、貴女はお父様から預かった証拠だからと、封蝋が砕けないように開けるよう進言されたそうですね。当時、立ち会いの場にいた使用人が教えてくれました」
「……当然でしょ! それがなかったら、中身が夫の書いたものと認めないって言われかねないわ。亡くなる前、あの人は字を書くのもやっとだったのだから!」
「……お父様に無理やり、書かせたのですね」
「違うわ。あの人は自分の意思で書いたのよ!」

 こんなミミズが這ったような文字、誰がお父様のものだと信じるの。

 あれほど厳格で姿勢正しく生きてこられたお父様の、最後の文字がこんなものだなんて。
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