悪役令嬢が多すぎる〜転生者リナの場合〜
その3
前世日本人で、大手企業で働いていた佐藤リナは、交通事故であえなく命を散らしたあと、なんの因果か異世界に転生した。
おぎゃあと生まれたときはただの書店の長女だったが、九歳のとき暴走する馬車にはねられて頭を打ち、その瞬間に前世の記憶が蘇った。
それはまだいい。いや、当時はそこそこ驚いたが、あれから11年経つ中で、こんなこともあるだろうと理解できるくらいには逞しい大人になった。
驚くべきは、この世界の至るところに前世持ち転生者がいたことだ。
エリーゼ・フォン・ハプスブルクもそのひとりだ。リナより2つ年下の18歳。
庶民の書店の娘に転生した自分と違って、彼女は伯爵家のご令嬢だった。それもただの令嬢ではない、悪役令嬢だ。
そう、この世界には悪役令嬢が存在する。彼女たちは揃って前世持ち、加えて乙女ゲームにハマっていた経歴があり、しかもそのゲームはひとつではなく様々だった。
だからだろうか、悪役令嬢転生が異常なくらい多く、それが昨今の王都の恋愛市場に多大な影響を及ぼしていた。
「悪役令嬢の人数? うちに登録している子は全部で42人よ。あとは協定委員会に所属していない野良の子たちが、少なくとも10人はいるんじゃないかって話」
「悪役令嬢が50人越え」
「それに対して恋愛適齢期の王子・騎士・目立つ貴公子たちが12人」
「ヒーローがまさかの1ダース」
「もっと少ないのが聖女・ヒロイン枠。今は減りに減って3人しかいないの」
「究極のヒロインインフレ状態」
エリーゼのつっこみどころしかない説明に、リナは頭を抱えた。今ほど激しくモブでよかったと思ったことはない。茶色の髪に茶色の瞳、埋没要素満載万歳。
「なんでまた、そんなに需給バランスがおかしなことになってるんですか」
「私にもわからないわ。システムのバグとかじゃない? クレームなら運営に直接言ってちょうだいな」
その運営はそもそもこの世界にないのだから、お手上げもお手上げなのだと、エリーゼはぼやいた。
「再来月にはフィリップ王子の誕生日パーティがあるの。そこで婚約者を決めるんじゃないかって噂もあって、悪役令嬢たちも地に足がつかないというか。ほら、王城パーティでの断罪って悪役令嬢の花形イベントじゃない? 誰がその権利を得るのかって、毎日問い合わせがくるのよ。このまま状況を整理せずに放置すれば血みどろの争いが起きそうだし、かといってこちらで人選すればえこひいきだって突き上げられるし。そんな状態だから、新人の管理まで手が回らないの」
だからお願い!と、エリーゼがリナの手をぎゅっと握った。
「前世で同じゲームをプレイしていた日本人同士、お互い助け合おうって、出会ったときに誓ったじゃない。このままでは王都の恋愛市場はいずれ悪役令嬢の大暴落を起こしてしまうわ。そうなる前に手を打ちたいの」
親友の切なる訴えと、「言うこと聞いてくれなきゃ伯爵家権限で店を潰す」という悪役っぷりの前に、リナは頷くよりほかなかった。
おぎゃあと生まれたときはただの書店の長女だったが、九歳のとき暴走する馬車にはねられて頭を打ち、その瞬間に前世の記憶が蘇った。
それはまだいい。いや、当時はそこそこ驚いたが、あれから11年経つ中で、こんなこともあるだろうと理解できるくらいには逞しい大人になった。
驚くべきは、この世界の至るところに前世持ち転生者がいたことだ。
エリーゼ・フォン・ハプスブルクもそのひとりだ。リナより2つ年下の18歳。
庶民の書店の娘に転生した自分と違って、彼女は伯爵家のご令嬢だった。それもただの令嬢ではない、悪役令嬢だ。
そう、この世界には悪役令嬢が存在する。彼女たちは揃って前世持ち、加えて乙女ゲームにハマっていた経歴があり、しかもそのゲームはひとつではなく様々だった。
だからだろうか、悪役令嬢転生が異常なくらい多く、それが昨今の王都の恋愛市場に多大な影響を及ぼしていた。
「悪役令嬢の人数? うちに登録している子は全部で42人よ。あとは協定委員会に所属していない野良の子たちが、少なくとも10人はいるんじゃないかって話」
「悪役令嬢が50人越え」
「それに対して恋愛適齢期の王子・騎士・目立つ貴公子たちが12人」
「ヒーローがまさかの1ダース」
「もっと少ないのが聖女・ヒロイン枠。今は減りに減って3人しかいないの」
「究極のヒロインインフレ状態」
エリーゼのつっこみどころしかない説明に、リナは頭を抱えた。今ほど激しくモブでよかったと思ったことはない。茶色の髪に茶色の瞳、埋没要素満載万歳。
「なんでまた、そんなに需給バランスがおかしなことになってるんですか」
「私にもわからないわ。システムのバグとかじゃない? クレームなら運営に直接言ってちょうだいな」
その運営はそもそもこの世界にないのだから、お手上げもお手上げなのだと、エリーゼはぼやいた。
「再来月にはフィリップ王子の誕生日パーティがあるの。そこで婚約者を決めるんじゃないかって噂もあって、悪役令嬢たちも地に足がつかないというか。ほら、王城パーティでの断罪って悪役令嬢の花形イベントじゃない? 誰がその権利を得るのかって、毎日問い合わせがくるのよ。このまま状況を整理せずに放置すれば血みどろの争いが起きそうだし、かといってこちらで人選すればえこひいきだって突き上げられるし。そんな状態だから、新人の管理まで手が回らないの」
だからお願い!と、エリーゼがリナの手をぎゅっと握った。
「前世で同じゲームをプレイしていた日本人同士、お互い助け合おうって、出会ったときに誓ったじゃない。このままでは王都の恋愛市場はいずれ悪役令嬢の大暴落を起こしてしまうわ。そうなる前に手を打ちたいの」
親友の切なる訴えと、「言うこと聞いてくれなきゃ伯爵家権限で店を潰す」という悪役っぷりの前に、リナは頷くよりほかなかった。