ふたりだけの夜
 玄関の前でそう言い、帰ろうとする尚に、思わずしがみつく。
「ちょっと!蘭、一体どうしたんだよ?」
「お願い、帰らないで⋯⋯」
「何バカなこと言ってるんだ。そんなのダメだよ!」
「どうして⋯⋯?ねえ、好きだって言ってくれたのは嘘だったの?」
「嘘じゃないよ!だからって⋯⋯」
「本当に好きだったら、ひとりにしないでよ!お願いだから⋯⋯」
 我ながら、なんて惨めなことをしているのかと思う。
 こんな風に、自分を安売りするような真似だけは、絶対にしたくないと心に決めて生きてきたはずなのに。
 尚はため息をつくと、
「わかったよ」
 一言だけ言い、部屋に入ってきた。
 ドアを閉めるや否や、私は尚に抱きついて慟哭した。
 どうして、こんなにも淋しいのだろう⋯⋯?
 今は、私のことを支えてくれている尚の腕だけが心の拠り所だ。
 思い切り、泣きたいだけ泣くと、意識が遠のいていった――。
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